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共同名義という選択
皆さんこんにちは。
オフショアの金融商品や銀行口座開設の申込書をみると、まず
「共同名義(Joint Account)」にするか「単独名義(Single Account)」
にするかという選択肢が出てきますが、まずここで戸惑われる方が多いのでは
ないでしょうか。

「共同名義」という保有形態はあらかじめ持分を決めることなく、複数の所有者全員
の共有財産にするというもの、一般的には夫婦間での「共同名義」が多いようです。

我々日本人からみるとと少し不思議な気がしますよね、例えばあなたが日本の証券会社
で投資信託を購入するとして、それがあなたのものでもなく、かといって奥様のもの
でもなく、お二人の共有の財産になるとしたらどうでしょうか?

イギリス人の知り合いに聞くと、これは歴史的なものでヨーロッパでは家や土地など
の財産は、夫婦共有の財産として持分を決めずに所有することが昔から一般的に行われ
てきたそうです。

おそらくこの流れが、ファンドや銀行口座における「共同名義」へと繋がっている
のでしょう。

これに対して日本はどうかといいますと、例えば家や土地を所有する場合、夫婦共同の
財産として登記することはできません、もし夫婦が別々の財布からお金を出したのなら、
例えば夫70%、妻30%といった具合に(実態に即して)持分を定めて登記する必要
があります。

このあたりのお話しは歴史的な背景や文化の違いを含め、私には随分と興味
深く感じられます。

私の感覚では日本よりヨーロッパのほうが人間がよほど合理的にできており、
そのぶんヨーロッパでは「共同名義」などというあいまいな考え方は馴染まないように
思っておりました。

更に云いますと、我が国では歴史的に男性(夫)の家庭での地位が高く、
そのぶん女性(妻)の財産権を(持分という点で)明確に定義した現在の法律は、
少なくとも我が国固有の慣習に基づくものではないと感じていましたし、
そらくこのような税体系は男女同権が確立した明治期以降に、ヨーロッパから輸入
された考えに基づくものだとばかり思っていました。

ですから、ヨーロッパに「共同名義」という概念があることが不思議でしたし、
逆に日本に「共同名義」という仕組みがないのが少し不思議な感じがしていたわけです。

ところが最近「武士の家計簿(磯田道史)新潮新書」という本を読んで納得できました。

この本は幕末から明治初期にかけ、金沢のある武士(猪山某)が残した当時の家計簿
を丹念に分析したものですが、それによると

『武家女性は、生涯にわたって、実家との絆が強い(中略)
猪山家の娘たちは、実家の父と弟から「給料日のお小遣い」を
毎年もらっていたのである。(中略)妻の財産は、猪山家財産とは
別会計になっており、夫婦であっても借金をする形になっている。
ただ、さすがに利子は取っていない。妻の財産が夫と分離しがち
なのには理由があった。(中略)まずは寿命が短いから、すぐに
「死別」になる。そのうえ離婚が多い。農民よりも、武士のほうが、
むしろ離婚が多いかもしれない。だから、夫婦の財産はきっちり
別になっていて、いつ離婚してもよいようになっていた。(中略)
我々が漠然と抱いている「封建的な」武家女性のイメージと実態
は「随分ちがう」と考えたほうがよさそうである。


とかかれています、つまり日本の江戸時代では、妻の財産は家の財産から分離されて
いたということです。


もちろんこれはたった一人の武士が残した家計簿から著者が読み取ったもので、
江戸時代の全ての日本の家計がこの通りだったというわけではないかもしれません・・・
しかし、かといって猪山家だけが風変わりな家系だったとも考えづらく、
やはり日本の標準的な武士の家ではこのように女性(妻)の財産は、家の財産とは
分離されて管理されていたと考えてよいのではないでしょうか。

話しは少し長くなりましたが、このような背景があったからこそ我が国で「共同名義」
が馴染みにくい、あるいは我が国の税体系にそもそも「共同名義」という概念がないと
いう事実も納得できるような気がしますし、またヨーロッパで「共同名義」という財産の
保有形態が、歴史的に受け継がれてきた理由も何となく理解できるような気がします。


さて、ここからはお金のお話です。


確かに私達日本人にとって馴染みがなく、また理解しづらい仕組みではありますが、そのハードルを乗り越え仮にオフショアの金融商品を「共同名義」で購入した場合、いくつかとても便利な点があります。

1. 名義人の片側が死亡しても、継続運用/解約が遺された一方の
  指示できる。

2. 売却益がでた場合、(仮に税務当局が50:50の持分保有と
  認定した場合)売却益は夫婦それぞれの所得になる。

特に1は大きいですね、日本の金融商品もそうですが、死亡時の名義変更は手間と 時間がかかります。

2はやや逆説的ですが、確かにこういう効果もあるかもしれません。

一方で以下のような使い勝手の悪さもあります。

1.(例えば購入時に夫の口座から全額送金し、「共同名義」で
 購入した場合、その半額相当額は夫から妻への)贈与とみなされる
 危険性がある。

 この場合、年間の贈与が110万円を超えると、贈与税の対象に
 なってしまいますのでご注意ください。

2. 名義人が離婚/別居した場合など、運用指示/解約に手数がかかる
  場合がある。

要するにとても便利な仕組みではありますが、そもそも我が国の税体系に「共同名義」
という概念そのものが無いので、最終的には税務当局の判断にゆだねられる事になる、
そして場合によっては保有者に不利な判断がなされる場合があるということです。

「共同名義」を選択すべきか否か、投資家それぞれの経済的状況やご家族の状況に
よって異なってきますので、慎重にお選びいただければと思います。


では 今回はこのへんで。

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