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米国の金融規制案
みなさんこんにちは。

1月21日、オバマ大統領が金融規制案を発表しましたね。

これを受け、世界の株式相場や商品相場は大きく下落しました。

私は普段このような詳細不明なニュースには
動かされないように心掛けているのですが、この発表には
いくつか重要な問題が含まれているようですので、今回は
少し早めにこの問題について考えてみたいと思います。

まず発表文自体は僅か数行で、先ほど申しましたように
詳細は詰まっていないようですが、大きく分けて以下の2点が
中心になっているようです。

1.銀行による投資制限
銀行によるヘッジファンドや未公開株ファンドなど、高リスクな
金融商品への投資や所有を禁止し、自己勘定による高リスク
資産への投資を制限する

2.市場からの借入の制限
全ての金融機関に対し、市場から借り入れる資金の上限を
設定する


1は銀行のみに対して行う規制で、仮にこの案が実現化しますと
金融機関は「銀行」にとどまって低リスクの運用に徹するか、
「銀行以外の金融機関」、言い換えれば証券会社やファンドに転じ、
高リスクの運用に特化するかの選択に迫られることになります。

要するに(預金として)低コストで調達したマネーは低リスク
で運用し、高リスク資産で運用するマネーは、それを承知で
投じられたマネーに限定するというわけです。

少なくとも今までのように、市場から預金として調達した低利の
マネーを、賭博に突っ込むようなことはなくなることになります。

これに対し2は金融機関が巨大化し、「大きすぎて潰せない」
状態になってしまうことを防ぐ意味合いがあります。

大きくて潰せない金融機関が少しある状態より、潰れても
影響が小さい数多くの金融機関があるほうが、国民は幸せに
暮らせるというわけですね。

要するに1は「投資の制限」で、2は「規模の制限」というわけ
ですが、いずれも前回の金融ショックを繰り返さないという
反省からでしょう。

米国では1933年の大恐慌後、「銀行と証券会社の分離」が行われ
ましたが、1999年に再び「銀行と証券の兼業」を認めました。

1980年代に製造業で覇権を失った米国が、「銀行と証券の兼業」
を認め、金融分野の成長を促す政策を採ったのは、ある意味自然な
成り行きだったでしょう、事実米国はこの政策によって1980年代の
低成長から復活を果たしました。

その結果として金融産業の自由度が増しましたが、金融機関が
高リスク運用に傾斜し、なおかつ巨大化していったのは、
ある意味やむをえない副産物だったといってよいでしょう。

2008年の金融ショックは、このような米国の産業史の中で
みておくべきなのでしょうし、今回の金融規制案についても、
やはり同じ文脈のなかで読み解く必要があるでしょう。

仮に今回のオバマ案が実現しますと、米国は1990年以来の
金融産業に頼った国家発展像を放棄せざるをえません、今後米国は
製造業やIT産業、エネルギー産業など、いわば実業への回帰を
目指すことになるでしょう。

私はそれは米国や世界にとって決して悪いことだと思いません、
世界は再び実需に立脚した、穏やかな経済を取り戻すことが
できるのではないでしょうか。

一方でこのオバマ案が実現すれば、短期的にはいくつかの
懸念も生じることでしょう。

まず一つは、高リスク資産へ流入するマネーの減少です。

ただそもそも高リスクを求める短期マネーは、相場水準そのもの
を動かす力は持っていません、従ってその影響は、短期の上下動を
小さくする程度にとどまり、相場水準そのものには、大きな影響を
与えないのではないでしょうか。

もう一つ考えられるのは、比較的腰のすわったマネーの流れ
の変化でしょう。

米国の銀行が供給してきたのは、短期の投機マネーばかりでは
ありません、例えば未公開の有望なベンチャー企業、あるいは
新興国の幅広い産業や鉱山開発などへ、中長期の実需マネーを供給
してきた側面もあるはずです。

このようなマネーの蛇口を絞られますと、米国や世界の実体経済に
何らかの悪影響を及ぼす可能性は否定できないと思います、
もちろんこれは中長期の問題としてですが・・・どの程度の
規制が導入されるかにもよりますが、実体経済に与える中長期の
影響については、今後も注意深く見てゆく必要があると思います。

株価やコモディティ価格は、短期的には投機マネーの影響を
大きく受けますが、いずれは実体経済を反映した位置に戻るはずです、
そういう意味ではむしろ後者の中長期的な影響のほうを、より
私たちは注視しておく必要があるのではないでしょうか。

この問題は1990年代以降続いてきた、世界の金融システムの
転換点になる可能性があると私は思います、ここ20年ほどのあいだ
世界は短期マネーに催促され、身の丈以上の速度で成長を
続けてきましたが、そもそも私たちはそれほどの速度で成長を
続ける必要があったのでしょうか・・・

身の丈に合った経済成長と、それにみあった穏やかな
資産価値の上昇・・・私などはそれだけで十分ではないかという
気がするわけです。

そういう意味で、今回の規制案は評価されてよいと
私は思います。



では、今回はこのへんで。
(2010年1月26日)




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