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本当に30%円安なのか
みなさんこんにちは。

今回は少し為替のお話しをさせて頂きます。

1995年、円ドルレートは79円の最高値をつけました。

単純に当時の為替レートと現在のレートを比べますと、
既に当時と並ぶレベルまで円高は進んでおり、日本の
輸出産業にとって相当厳しいレベルに達している
という見方ができるわけですが、一方で当時と比べ現在の円相場は、
まだ30%の円安水準にあるという見方もあります。

「今が円安」といわれても、なかなか納得しにくいでしょうが、
確かにある計算方法をとれば、当時より現在はまだ3割程度も
円安の状態にあるといえます。

皆さんは『実質実効為替レート』という言葉をお聞きに
なったことはございますか。

これは円の価値を、他の貿易相手諸国の通貨を平均したものと比べた
為替レートで、なおかつ各国の物価変動を加味して算出致します。

1995年来、我が国はデフレ傾向にありましたので、
この『実質実効為替レート』でみると現在の為替
水準は、1995年当時と比べまだ30%程度の円安水準に
あるというわけです。

ご参考までに『実質実効為替レート』は、以下のような考え方に
基づいて計算されています。

例えば1995年当時(仮に1$=85円)を起点に考えてみましょうか。

その後15年間で米国の物価は40%上昇し、日本の物価は変化
しなかったとします。

例えば当時$20,000だった自動車は、当時の為替レートで円換算すると
$20,000×85=170万円となりますね。

ではそれから15年後。同じ車(注)は現在日米でいくらの値が
ついていることになるでしょうか。

注)実際にはモデルチェンジなどあり、同じ車は買えませんが、
  ここではお話しを単純にするため


米国は1995-2010年の間40%の物価上昇がみられますので、
$20,000×1.4=$28,000となっているはずです。

一方で日本ではこの間物価の上昇はみられませんでした、
従ってこの車は、現在日本でも170万円で売られている
はずです。

購買力平価説(注)に基づきますと、$28,000と170万円が等価になる
水準で為替レートは落ち着くはずですから、現在の円ドルレートは
1,700,000÷28,000=60.7、即ち 1$=60.7円ということになるわけです。

(注)同じものが二国間で同じ価格になるよう、為替レートが変動して
   モノの値段を調整するという考え方。

従って現在の円ドルレート(1$=85円)は、理論値である1$=60.7円
よりまだ3割ほど円安だということになるわけで、これが
『実質実効為替レート』でみた「30%円安説」の出どころです。

なお『実質実効為替レート』の時系列チャートは、以下日銀の
サイトをご参照ください。

http://www.boj.or.jp/type/exp/stat/exrate.htm

これをみますと確かに現在の水準(100強)は、1995年当時の水準
(150強)に比べ、まだ30%ほど円安の水準にあるといえます。

別に日銀にケチをつけるわけではありませんが、私は『実質
実効為替レート』のみによって、現在の為替水準を語るのは
いささか表面的すぎるような気がしております。

なぜかといいますと、時間とともに両国の富裕度そのものが変化し、
その結果購買力も変化するという視点が、そもそもこの
『実質実効為替レート』の算出過程から抜け落ちているからです。


先ほどの例では、1995年当時の日本で170万円で売られていた車は、
現在でも170万円で売られていることを前提にしていますが、
この点に誤りはないでしょうか。

確かに物価の変動が無ければ、当時の170万円の車は
いまでも170万円で売ってはいるでしょう、が、この15年
というもの日本人の富裕度は明らかに低下しています。

1995年に170万円で普通の人が購入していた車が、
現在の日本人にとって、当時より相対的に高額な商品になって
しまっているとはいえないでしょうか。

人によっては170万円の普通乗用車を買わず、100万円の軽乗用車に
乗り換えたり、あるいは自動車の購入そのものを諦め、そのお金で
携帯電話を買ったり、アイフォーンを買ったりといった現象
もみられます。

確かに当時170万円の車は、いまでも表面的には170万円なの
でしょうが、日本人にとって、今の170万円の車の持つ意味は、
15年まえと同じものではありません。

このような相対的富裕度の低下は、実効為替レートに反映されず、
その結果、『現在の為替水準は1995年の円高時に比べ、
まだ30%程度の円安水準にある』といった、よく巷で使われる
表現に結びついはいないでしょうか・・・

仮にごく大雑把に申し上げて、この間我が国の相対的な富裕度が
60%低下していたとしたらどうでしょうか。

このような補正を加えますと、現在は超円高だった1995年当時と
比べても、手元の計算ではさらに20%ほどの円高状態にある
ことになります。

このような理由で私は「30%円安説」はあまりに表面的だと
思いますし、政府や日銀がこのように表面的な理由で、
現在の円高に危機感を持っていないとしたら、それは極めて
危険なことだと思うわけです。




では、今回はこのへんで。

(2010年9月9日)




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