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■ポートフォリオ作成の手順について(その3)

ではなぜこのように大半の方が「偏っていて、なおかつ欠けている」という状況に陥ってしまうのでしょうか。私はこれを売る側、買う側の相乗効果の産物だと考えています。一般に人はある好みに執着しやすい特性を持っているようですね。金融工学の教科書の第一ページ目には「同じリターンで異なる価格変動リスクを持つ金融商品が複数ある場合、人は価格変動の小さい商品を選ぶ」と書かれていますが、どうも私には人間はそれほど合理的に物事を判断していないように思います。なかには非常にリスク選好の強い人たちがいて、そのようなグループに属する人は、逆に同じリターンならより高い価格変動を好む傾向にあるといったケースも見受けられます。またあるいは必要以上に高いリターンを追求する性質をもったグループ、逆に極端にリスクを嫌い、その結果資産の大半を過剰配当型ファンドに移してしまった方たちにも私はよく遭遇いたします。このように人は合理的な判断基準によらず、むしろ情緒的に金融商品を選別しているといえるのではないでしょうか。その結果ポートフォリオにはその方自身の性格が如実に表れ、知らず知らずのうちに「偏っていて、なおかつ欠けている」状態になってゆきます。これが買う側による要因です。

これに対して売る側には問題はないのでしょうか。一般に皆さんが証券会社と取引をする場合、複数の証券会社に口座を開設されるのではないでしょうか。あるいは過去のいきさつで、結果的に数社に口座ができてしまったという方も多いでしょう。そこでどのようなことが起こるかといいますと、買い手一人に対して、売り手が複数といういわば「一対多」の関係が生じることになります。金融商品の勧誘の現場で、この「一対多」の関係には注意が必要です、投資信託の世界には流行りがあり、例えば一社が高金利通貨建て債券ファンドを組成し、それがヒットするとたちまち業界あげて同種の商品の投入といった現象がおきます。その結果一人の個人投資家に対し、契約のある全ての証券会社から同時期に同様の投信の勧誘が行われるということが起こりえるわけです。

しかも証券会社は売る側のプロとして、顧客ごとの属性だけでなく日ごろの営業活動による会話のなかで、ごく自然な形で投資家の情緒的な部分、即ち「好み」を実によく把握しているものです(さらに言えばそれが優秀な営業マンの条件とも言えるでしょう)。かくして気がつけば皆さんのポートフォリオは多数の証券会社経由で購入した、性格の似通った投信で占められてゆく・・・いわば「偏っていて、なおかつ欠けている」状態になるわけです。

先ほどご紹介したマトリックス・アロケーションは、皆さんがこのように「偏っていて、なおかつ欠けている」状態に陥ることを防いでくれるでしょう。

以上私が日ごろ実際に行っているポートフォリオ作成の手順ですが、実際はこれに続いて具体的な金融商品の選定に移ることになります。一般に資産運用の成果は、各々の金融商品を購入する手前の段階、言い換えればポートフォリオの構築時点で80%は決まるといわれています。私自身もポートフォリオ構築はとても大切なステップだと思いますが、それで80%決まってしまうという見方には多少の違和感を持たざるをえません、例えばアメリカンフットボールの試合では、チーム全体の動きを決めるフォーメーションは非常に重要なファクターですが、個々のプレーヤーの力量も同程度に試合の結果を左右します。資産運用においても全体の枠組みを決定するポートフォリオは大切ですが、個々の金融商品としてどのような銘柄を選ぶかも同様に重要ではないでしょうか。

具体例をあげるなら例えば株です、成長性の低い先進国株(例えば日本株)を組み入れるか、それとも高い成長性を持ったASEAN株を組み入れるかで、少なくとも過去数年は資産全体のリターンは大きな違いが出ました。また同じコモディティを資産に組み入れるにしても、例えば2009年を例にとってみるとどうでしょうか。貴金属は金が過去最高値を更新するなど目覚ましいリターンをあげた半面、大豆やトウモロコシなど穀物を投資対象にしたファンドは、めだったリターンをあげることができませんでした。このようにみますと、私にはどうしてもポートフォリオ構築が運用成績の80%を決めてしまうという、過去の研究を鵜呑みにする気になれません。

このようなことから私自身は具体的な金融商品の選択には、ポートフォリオ構築と同程度、あるいはそれ以上の時間を割くようにしています。

私が資産運用の助言に際し、気をつけている点がもう一つあります。それは過度に過去の数字に過度に頼らないということです。現代ポートフォリオ理論の要諦を一言でいいますと「いかにしてリターンを維持しながらリスクを抑制するか」という点にあるわけですが、ポートフォリオのリスク/リターンは、それらを構成する個々の金融商品の過去データを使用して数学的に計算することができます。言い換えればこの算出されたリスク/リターンを最適化する金融商品の組み合わせを見つけることによって、最適なポートフォリオを構築することができるわけです。

一見非常に合理的な理論体系にみえますが、実はこの現代ポートフォリオ理論には致命的な欠陥がありました。それは「組み入れる個々の金融商品の過去データ」がサンプル数として不十分である点です。例えばAというファンドがあり2003年1月に運用が開始されたとしましょう。仮に皆さんが2011年1月にこのAファンドの購入を検討するとすればどうでしょうか、その時点で運用月数は108ケ月になるわけですね。この108というサンプル数がポートフォリオのリスク/リターンの計算に十分かと言いますと、私には決して十分な数には思えません。ご存知のように経済環境は刻々と変化しています。株ひとつとっても例えば2003年当時はまだ新興国ということばすら馴染みが薄く、世界のマネーは新興国株をまともな投資先とはみていませんでした。従って新興国株のリスク/リターン特性は当時と今とでは大きく変化しているはずです。それについては例えば当時の代表的な新興国である中国株の2003年当時のチャートの形状と、直近の形状を比べると一目瞭然です。つまりは新興国株自身の性格が大きく変化した結果、過去のデータのみから今後の投資方針を決めることができなくなったわけです。


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