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この二つの出来事
皆さん、こんにちは。

また日本の証券業界で不愉快な出来事がありました・・・

報道によると、日興コーディアル証券による利益の水増しを
証券取引等監視委員会が指摘し、金融庁に対し5億円の課徴金を勧告したとの事。

この事件、私も少し勉強してみたのですが、なにぶん仕組みが複雑ですので
ここではまず、簡単な例を挙げてできるだけわかり易く説明させて
頂こうと思います。

まず、仮にここにB社とC社という二つの会社があるとしましょう。

ここでB社はC社との間で以下のような契約を結んだとします。

・(全くの第三者である)D社の2004年9月15日の株価を基準にして、そこから
2005年1月15日までのD社株の上昇幅に応じ、一定のお金がC社からB社に
支払われる。
・反対にD社の株価が下がると、B社は逆にC社に対して一定額を支払う義務 が生じる。

この場合D社の株価が、2004年9月15日から2005年1月15日の間に上昇
していればB社は当然儲かりますが、一方でC社はといいいますと
B社が儲けたお金の同額が損失として発生することになります、逆に
D社株がこの間下落していればC社の儲けというわけです。

ここまでのところは通常の取引で何の問題もありません(この取引は
「他社株転換社債」を発行することにより行われます)。

では仮に、上記のB社とC社が同じグループに属する会社だとすればどうで
しょうか・・・

この場合、グループ内でお金がB社からC社(もしくはC社から
B社)に移動するだけで、グループ全体としてみればお金の移動は
無いことになります。

従ってこのような取引でグループ(この場合日興)の利益は増えることも
減ることもないはずです・・・ところが、あるトリックを使いますと
B社がC社から受け取ったお金のみをグループの利益として認識し、
C社がB社に支払ったお金は、グループの損失として計上せず済ませて
しまうことができます。

ちょっと手品のようなお話しですが、C社をグループ会社ではなく
全く外部の会社としてグループの決算(これを連結決算といいます)の
対象から除外してしまうこという方法です。

通常このように勝手に連結決算の対象から外してしまう行為は、認め
られてはいないのですが、C社が実業を伴わないペーパーカンパニー
(SPC=特別目的会社)の場合は、特例として連結対象に含める必要
はないという規定があります、今回日興はそこを利用したわけですね。

さらに言えば日興が起こした今回の問題では、このようなトリックだけが問題に
なっているわけではありません。

上記の例では「D社の2004年9月15日の株価を基準にして・・」
と書きましたが、日興ではその日付を一ヶ月ほど改ざんすることにより、
C社からB社に支払われるお金をさらに膨らまし、日興の連結上の収益を
もう一段余計に水増ししていました(日興側はあくまで意図的な改ざんではなく、
一社員による単純な日付の記載ミスだと主張しているようですが)。

より悪質なのは、その後同社は(このような方法で二重にかさ上げされた)
好決算を背景に、株式市場から500億円もの資金を「増資」という形で
調達していたことです。

うがった見方をすれば、この資金調達を円滑に行うため、上記のような一連の
不正を考えついたのかもしれません。

以上が現在報道されている『日興不正会計事件』の概要です。

このような報道を目にすると、いつもながら憂鬱な気分になりますが、
一方で私などは今年の1月に起こった『ライブドア事件』について、
再び考えさせられてしまいます。

・・・日興とライブドア、果たしてどちらが悪質で、どちらの行いが
より罪深いものだったのでしょうか。

共通点はいろいろあります。

・SPCを使って不正な会計処理を行い、会社の利益を水増しした点。
・その不正な会計処理がいずれも明白なクロ(違法行為)ではなく、どちらかというとグレー(法的に判断が分かれる行為)である点。
・水増しした利益を背景に、資本市場から有利に資金を調達した点。
・調達した資金で会社を膨張させようとした点。

このような点で一致していますが、いくつか異なる点もあります。

・ライブドアには(今のところ日興がやったような)露骨な過去履歴の改ざんは、みとめられていない点。
・日興は本来は証券市場の担い手の一人として、高い倫理性を要求される立場にいた事。

私はホリエモンの肩を持つつもりはさらさらないですし、彼が
やった一連のスレスレの行いは、結果として日本の証券市場を大きく歪める行為
として責められるべきだと思いますが、それでも今回の日興事件と比べて
考えますと、当局はその対応にここまで差をつけてしまっていいものだろうかと
考え込んでしまいます。

一方は刑事訴追の対象になり、本人や会社は致命的な打撃を受け、一方は
(検察当局は動かず)わずか5億円の課徴金、会社のトップは6ヶ月間
の報酬減額程度、もちろん辞任もせず(この原稿を書いた翌週に辞任の報道が
ありましたが)。

・・・これが日本の社会のある面での本質なのかもしれませんね。

もしアメリカでこのような2つの事件が続けて起こったら、当局はどのような
対応をするのでしょうか・・・アマノジャクな私などはどうしてもそんな事
を考えてしまうわけであります。



では 今回はこのへんで。

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