■百円札の思い出
皆さん、こんにちは。
今私の目の前に、昭和29年発行の百円札があります。
これはさっき、ご近所のギンザ・コインさんで買ってきたものです。
私が未だ幼かった頃、この百円札は現役で活躍していて、お年玉や
近所の神社のお祭りのときなど、よく両親からもらったものです・・・
こうやって眺めていますと当時の情景が思い出され、なんともいえず
懐かしい気持ちになります。
さてこの百円札、私がギンザ・コインさんに支払った金額は
5枚でちょうど1000円。
現役の千円札を一枚出して、54年前の百円札五枚と
交換してもらったことになります。
お札でお札を買う・・・なんとなく違和感があるのですが、
これを敢て解釈するなら『昔の百円札は希少性が高く、その分
付加価値がついている、そのプレミアムとして百円を上乗せして
交換してもらった』このようにいえるのかもしれません。
54年前の100円に対して200円を支払うこと・・・なんだか
損をしたような気分にならなくもありませんが、果たしてそう
でしょうか。
私のような買い手がいれば、必ず百円札の売り手(仮にAさん)
もいるはず、では売り手のAさんが得をしたのでしょうか?
総務省統計局のデータによりますと、今から54年前の昭和29年時点の
消費者物価指数は301.8、これに対し直近データの平成18年時点の
消費者物価指数は1769.3ですから、この間、物価は約5.9倍になっている
わけです。
従って昭和29年時点の百円札は、今の貨幣価値でいいますと約600円
ほどの価値を持っていたことになります。
Aさんが当時百円札をタンスにつっこんでおき、54年後の今ギンザ・コイン
さんに持ち込んだとしても(ギンザ・コインさんがマージンなしで
200円で買い取ってくれたとしても)、当時600円ほどの価値があったものが、
わずか200円でしか買い取ってくれないことになり、結果的にはAさんは
儲かるどころか、逆に400円ほど損をした勘定になります。
このようにAさんは決して得をしているわけではなく、
むしろ損をしているといえるのですが、これをもう少し
噛み砕いて考えますと下記のようにいうこともできます。
1.Aさんは当時の100円を54年の間に200円に増やすことができた。
2.しかしその54年の間に物価は5.9倍になり、結果的にAさんは
66%(200円÷590円≒34%)ほど損をした。
これを投資になぞらえるなら、Aさんの投資対象は54年で2倍に
増えたたが、インフレ率490%には勝てず、結果的にこの投資は
失敗に終わった、このようにいうこともできます。
では当時Aさんは、どのような形でこの100円を保有すれば、
インフレに負けず資産を増やすことが出来たのでしょうか。
例えば金(きん)、昭和29年前後の金価格は1グラム約600円弱で
推移していました、従ってAさんは手持ちの100円で0.2グラム弱の
金を買えたことになります、0.2グラム弱の金の価値は現在約600円、
当時のAさんの100円は600円に増えたことになり、これはちょうど
物価の上昇率と同程度ですから、決して悪い投資ではなかったことに
なります(でも意外と金は上がっていませんね)。
では日本株はどうでしょうか?
昭和29年あたりの日経平均は400円強、現在は(ずいぶん寂しい
状況ですが、それでも)13000円前後、大雑把にいって30倍強ですから
日本株は正解だったということになるでしょう。
不動産については古いデータは見あたらなかったので、1960年対比
でみたのですが(六大都市圏住宅地価格)、それでも概ね13倍程度と
なっていますから、これもまた正解だったといえそうです。
このように過去50年ほど遡ってみれば、投資対象によって
随分とインフレ耐性に差があることがわかります、もちろんこれは、
その時々の経済情勢によっても変わってくるはずで、例えば過去50年
を振り返って圧倒的に有利だった日本株が、次の50年でも有利である
保証はありませんし、また50年先をみるのか、30年先をみるのか
というスパンの違いによっても、随分と状況は変わってくると思います。
それでも当時のAさんの選択肢であった百円札と日本株の間に、実に
15倍のリターンの差が出てしまったという事実を見ると、やはり
何に投資し、何を投資対象から外すのかという選択は、私達の
将来の生活に大きな影響を与えるといわざるを得ません。
私達はこれから否応なく、インフレ時代を生きなくてはならない
と私は思うのですが、少なくとも自分の資産運用の重心をどこに
おくのかという、いわば骨格の部分は、いまのうちからしっかりと決めて
おく必要があるのではないでしょうか。
個人的には百円札の思いでに浸るのも好きですが・・・
では、今回はこのへんで。
(2008年7月15日)
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