相関係数が1になるとき
皆さん、こんにちは。

市場に強いストレスが加わると、あらゆる資産間の相関係数の
絶対値が1になるという考え方があります。

絶対値が1ということは、1もしくは-1ということ・・

例えば今のような金融危機に見舞われ、市場に異常なストレスが加わり
ますと、金融商品の価格は同じ方向に向かって動く一群と、正反対の方向
に向かって動く一群に分かれるということです。

もちろんこれは比喩的な表現ですから、それほどきれいに二極化する
訳ではありませんが、大きな流れとして、そのような傾向が見て
とれるという程度の意味です。

これを昨今の経済状態に当てはめますと、当たらずとも遠からず
という気が致します・・・

例えばコモディティ価格と株価の値動き。

昨年のサブプライム・ショック直後から、コモディティはその
上昇速度を速め、一方で世界の株価は徐々に下げ始めました。

今から振り返りますと、あの時点ではさほどのストレスは市場に
かかっていなかったのでしょうね。

その後しばらくは株安・コモディティ高、即ち異なった方向に向かって
動く状態が続きました。

その流れが劇的に変化したのは今年7月。

原油や金属などのコモィティが急反転すると同時に、株価も下げ足を
早めました。

7月から10月あたりまでの状況は、まさに「相関係数の絶対値が1」の
状態でした、平時では株価とコモディティ価格の相関係数はゼロ近辺ですが、
特にリーマン・ショック以降の両者の相関係数は、まるで何か大きな力に
よって1に引き寄せられていったかのようでした・・・

この現象は株やコモディティに限ったことではありません。

例えば世界中の不動産の価格、あるいは不動産を投資対象と
したREITの価格。

さらに申し上げれば(ごく一時ではありますが)高格付けの
債券価格にすら同様の値動きが見られました。

人間は極限的状況下では、みな同じ行動をとるといいますが、
これらの現象は、あらゆるリスクのある資産からの一斉逃避の結果なので
しょう。

平時においては、過去の相関性に着目し、「できるだけ相関性の
低い金融資産に分散して保有する」ことが正しいとされていますが、
現在のように市場に強いストレスがかっかた特異な状態では、そのような
分散投資はさほど意味を持たず、私達は保有する多くの資産の一斉下落を
経験することになります。

まさに「相関係数1」の状態ですね。

では私達は、今後もひたすらこのような大きな金融危機が起こらない
ことを祈りながら、運用を続けてゆかなければならないの
でしょうか・・・

そのような目で市場を見渡してみますと、数は少ないですが株や
他の多くの資産とは逆行的(あるいは無関係に)値動きする資産が
あることに気づきます。

たとえば金(ゴールド)やトレンド・フォロー型戦略のヘッジファンド群。

ご参考までに、TOPIXと金、そしてあるトレンド・フォロー型ヘッジファンド
を例にとって、年初来の月次騰落率をまとめてみますと。

■金価格(ロンドン現物)
1月(+10.7%)
2月(+5.2%)
3月(-3.9%)
4月(-6.7%)
5月(+1.7%)
6月(+5.0%)
7月(-1.3%)
8月(-9.3%)
9月(+6.1%)
10月(-17.4%)
年初来-12.3%(ただし10月末時点)

■M社トレンド・フォロー型ファンド
1月(+6.1%)
2月(+2.8%)
3月(+4.5%)
4月(+1.0%)
5月(+3.2%)
6月(+1.0%)
7月(-6.1%)
8月(-3.9%)
9月(-0.5%)
10月(+15.5%)
年初来+24.3%(ただし10月末時点)

■TOPIX
1月(-9.2%)
2月(-1.6%)
3月(-8.8%)
4月(+11.8%)
5月(+3.7%)
6月(-6.2%)
7月(-1.2%)
8月(-3.8%)
9月(-13.6%)
10月(-20.2%)
年初来-43.4%(ただし10月末時点)

とこのようになります、例えばリーマン・ショック後、9月・10月
の変動率をみますと面白いことに気づきます。

まず9月を見ますとTPOIXが-13.6%と大幅に下落する一方、金は+6.1%と
逆に上昇し、トレンド・フォローは-0.5%とほぼフラット。

続いて10月を見ますとTOPIXと金はそれぞれ-20.2%、-17.4%で
そろって大幅安ですが、トレンド・フォローのみは+15.5%
と逆に急騰。

ちなみにこの期間の相関係数を計算すると

■TOPIXと金は+0.11
■TOPIXとトレンド・フォローは-0.52
■金とトレンド・フォローは-0.31

となり、株主体のポートフォリオに対し、金やトレンド・フォローを
保有することは、このようなストレス下においても十分なリスク抑制効果
や資産保全効果があったとがわかります。

現在の金融危機は100年に一度といわれています・・

次回私達がこのような大きなショックに見舞われるのは、相当先のことかも
知れませんが、今後も軽めのショックは何度も経験するに違いありません、
そういう意味でも、上記のような実体験は私達の今後の資産運用に
役に立つのではないでしょうか。

では、今回はこのへんで。
(2008年11月18日)




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