不可思議な円高
皆さん、こんにちは。

私達は何と環境に馴染みやすくできているのか・・・

このことについて考えますと、時々不思議な思いがします。

その昔、私がまだサラリーマンだったころ、絶対行きたくなかった
東京への転勤を命ぜられ、泣く泣く東京に赴任してきましたが、
住んでみれば何ということもなく、今では黒い汁のうどんも
平気で食べられるようになっています。

あるいはスーパーで買う食品の値段、当初は随分高くなったな
と感じましたが、しばらくするとそれを前提にした生活が回り始め、
いつしか順応してしまう。

為替相場についても似たようなところがありますね、昨年夏以降急速に
円高が進みましたが、感覚としてなんとなくそれがあたりまえになり、
今後もずっとこのような円高が続くと思い込んではいないでしょうか。

私達は本当に環境に馴染みやすくできている・・つくづくそう
思いますが、為替をはじめ相場に関しては、ただ馴染んでいる
だけではダメで、もっと深く考える必要があるように思います。

まず現在の円高の理由についてですが

「日本はサブプライム・ショックの影響が小さいので、相対的に
円は買われやすくなっている」

あるいは

「日本の金利は低く円は売られ続けてきたが、今後は各国の
低金利政策により金利差が縮小し、その結果逆に円が買
われやすくなる」

といった理由、さらには

「円キャリートレードの巻き戻し」論

などもあります。

要するに円が買われやすい理由はたくさんあり、これらがすっかり
市場のコンセンサスとして定着してしまっているようにみえます。

買い方はこのようなコンセンサスを背景に、円買いで利益を
手にしようとするわけですね。

要するに円高を正当化する理論付けを背景に、買い方は買いをしかけ、
そのことが円高を招いている状態、これが現状ではないでしょうか。

が、買い方が拠って立つ理論は正しいのでしょうか。

もちろん理論としては間違ってはいないでしょう、そもそも
理論付けに説得力がなければ市場は動かないはずです。

ただ相場というものは、時に適正なレンジを外れ、オーバーシュート
しやすということも頭に入れておかなければなりません。

問題は「現在の為替相場は適正なレンジに収まっているのか」
という点ではないでしょうか。

仮に適正なレンジというものが存在し、それがさらに円高(例えば
1ドル=70円といった)水準にあるとすれば、現在の相場は正当化
されるでしょうし、もっと言えばさらに円高は進んでも何ら不思議は
ないはず、最近よく円高論者がいうように例えば1ドル=70円程度
までだって十分にありえるでしょう。

一方で逆に現在の相場が適性なレンジをはずれ、すでにオーバーシュート
してしまっているとすればどうでしょうか・・・

この場合は上記のような円高の理論的背景は、すでに現在の相場に
織り込み済み(あるいは行過ぎ)で、円高理論自体が既に賞味期限
切れになっているということになるでしょう。

この場合は誤ったコンセンサスに引っ張られ、市場に歪みが生じつつ
ある状態ともいえるわけです。

さて皆さん、ここのところをどうお考えになりますか・・・

まず「実質実効為替レート(注)」をみますと、2007年7月の91.2を底に
反転し、直近の2008年12月には126.2と8年ぶりの円高水準まで
きています。

注:インフレ修正後の円の相対的な強弱感を表す指標で、1973年3月
を100にして指数化したもの、数値が大きくなるほど円高の状態で
あることを示す。2007年7月の91.2は1985年以来の円安水準でしたが、
その後円は急反発、現在は上記のように126.2まで急上昇中。

これにしても126.2という値が適性なのか、それとも円安なのか・・
この数字だけ見ていても判断は難しいですね。

数十年にわたって徐々に進む円安の中、今回の金融不安で消去法的に
円が買われ、一時的に91.2→126.2と38.3%と急速に円高が進んだが、
この38.3%の円高は行き過ぎなのか、いやまだ足りないのか、このような
議論になってしまうわけで、チャートだけみていても恐らく結論は出そうも
ありません。

一方で生活者としての視点で現在の為替を見ると、少し違った
風景が見えてきます。

下記データは、日本/韓国/米国/英国の主要な日用品価格を
現在の為替レートで円に換算したものです。

・タクシーの基本料金
日本(710円)
韓国(124円)
米国(401円)
英国(279円)

・スタバのカフェラテ一杯の値段
日本(370円)
韓国(247円)
米国(347円)
英国(253円)

・牛乳パック一個の値段
日本(208円)
韓国(156円)
米国( 96円)
英国(109円)

・クリーニング代(確かセーター一枚)
日本(1105円)
韓国( 520円)
米国( 890円)
英国(1270円)

・ビール大瓶一本の値段
日本(294円)
韓国(150円)
米国(125円)
英国(215円)

(以上1月30日テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」より)


上記のデータは数ある日用品(もしくはサービス)のごく一部に
過ぎませんが、少なくともこれらの価格を見ますと日本の物価は
すでに海外の物価より割高感があります、言い換えれば円と外貨の
交換レートは円高方向にふれているともいえるわけです。

現在の為替の水準が円高なのか、円安なのか・・・その判断は
なかなか難しいですが、このようなような生活者としての感覚は、
素朴なだけに侮れないものがあります。

さらに冒頭の円高論の根拠である

「日本はサブプライム・ショックの影響が小さいので、相対的に
買われやすくなっている」

という論点にも最近少し無理が出てきているように思います。

従来日本の金融は健全でサブプライム・ショックの影響を受けにくい
とされてきましたが、最近は「日本企業は輸出比率が高く、世界景気
後退の影響を最も大きく受ける」という見方が徐々に増えてきましたね、
この考え方はやがて円安へとつながってゆくはずです。

また

「日本の金利は低く円は売られ続けてきたが、今後は各国の
低金利政策により金利差が縮小し、その結果逆に円が買
われやすくなる」

という考え方も、日本と諸外国の金利差は既に縮まっており、金利差が
円買いのテーマになることは、今後少なくなるのではないでしょうか。

さらに「円キャリートレードの巻き戻し」論にしても、既に投機マネー
の大半は安全資産へ回帰してしまっており、巻き戻し論が円高を
サポートすることはもうないでしょう。

まだ一連の金融不安は完全には収まってはいませんが、
「その日」が近づいているのは間違いないでしょう、「その日」を
境に今度は徐々に日本が抱える根本的な問題に焦点があたり、それが
今度は円の売りで一稼ぎを目論む人たちの理論的な背景となる・・・

やがて私達はそのような経験をするような気がしてなりません。

では、今回はこのへんで。
(2009年2月3日)




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