■積み立て投資の誤解
みなさんこんにちは。
ご多分にもれず、資産運用の世界でもさまざまな誤解を
目にすることがあります。
例えば「長期積立投資」に関する誤解。
私は特に若い人たちが、長期にわたって少しずつ
金融商品を購入することは、素晴らしいことだと
思っています。
年金の不安、雇用の不安、財政悪化によるインフレや円安への
懸念など・・私たちを取り巻く経済的、政治的な不透明感は、
どう考えてもここ数年で解決に向かう性質のものとは思えません。
「例え日本の国がどのようになっても、自分と自分の家族の
生活は守らなければならない」
きっと若い人ほど、このような思いを強く持っている
ことでしょう。
これは至極健全な考え方だと私は思いますし、私自身も若い人たちが、
このような目的意識を持って長期の積立を行うことを、
大いに応援してゆきたいとも思っています。
ところが一方で、この積立投資に関していくつか気になることも
あります。
「毎月一定額を積み立てるドル・コスト法は、投資対象が
一時的に激しく上下しても全く気にする必要はない、
長期的にみれば皆さんの資産は徐々に増えるのだから、皆さんは
無駄な手間をかけす、ただひたすら積み立てを続ければいい」
例えばこのような表現です。
要するにドル・コスト法による長期投資は、積立期間中は
極力手間をかけず、例えば年に一度チェックする程度で十分、
たとえ短期的に激しく下げることがあっても、
相場をいちいち見る必要すらない、従って精神的にも
非常に楽だというわけです。
この考え・・・果たしてどうでしょうか。
私はこのような考え方は「積み立て投資」の本質を見誤って
いると思うのです。
よく考えてみますと「積み立て」には二つの側面があること
に気づきます。
まず一つ目は「これから入ってくるお金(いわゆるフロー
の部分)を、あらかじめ決められた資産に『配分』する
という側面」
そして二つ目は「既に入ってしまったお金(ストックの部分)
を、『継続運用』してゆくという側面」です。
これをヒヨコの養殖に例えるなら、毎月一定のお金でヒヨコを
買ってくる作業が前者で、買ってきたヒヨコを増やす作業が
後者ということになるでしょう。
仮に毎月1,000円でヒヨコを買ってくるとしますと、例えば
ヒヨコ一匹が500円なら二匹しか買えませんが、一匹100円なら
十匹買える計算です、相場が高い時には少ししか買わず、
相場が下がるとたくさん買う、確かにこれは積立投資の効用の
一つで、購入価格の変動リスクを下げるのに有効だといえます。
一方で、既に鳥小屋に入ってしまっているヒヨコはどう
でしょうか。
順調に行けばヒヨコはニワトリになって繁殖しますし、
飼い主が毎月新しい仲間を買ってきますから、数はどんどん
増えてゆくことでしょう、ところが一方でヒヨコの相場は
日々変動しています。
買い始めた当初は、鳥小屋のなかのヒヨコはそれほど多くは
ありませんし、毎月あたらしいヒヨコが入ってきますので、
飼い主は、きっとヒヨコの相場など気にならないに違いありません。
ところがそのあと、小屋のヒヨコは順調に増えてくるわけです・・
年を追ってフローの部分(買い増されるヒヨコの数)に比べ、
相対的なストックの部分(小屋のなかのヒヨコの数)の割合は
増えてゆきますので、飼い主は徐々にヒヨコの相場が気になり
始めることでしょう。
さらに時がたち(皮肉なことに)このドル・コストによる長期投資が
成功すればするほど、皆さんは日々のヒヨコの値動きが気になり、
いずれ頭のなかはヒヨコでいっぱいになるはずです・・
そしてその頃になって、「もっと早いうちに、ヒヨコの値動きに
ついて勉強しておくべきだった」と後悔するに違いありません。
結局、積立投資が手間いらずにみえるのは、最初のうちだけで、
時間の経過とともに、徐々に皆さんの手間や苦労は増えてゆく
ことになるはずです。
ではなぜこのうような、「積立投資=手間いらず」という誤った
図式が生まれてしまうのでしょうか。
私はフロー(バケツ入ってくるお金)の『配分』と、すでに
バケツの中に入ってしまったストックの部分の『運用』を、
混同しているからではないかと思います。
ドル・コスト法積み立ては、フローの『配分』を行うための
有効な手段ではありますが、貯まったお金(即ちストック部分)
の価格変動リスクを下げる効果はありません。
先ほどのヒヨコの例で解るように、積立投資が「放ったらかしで
お気楽」なのは、ストックの部分がまだ小さい、比較的初期の
うちだけです。
投資家は、積立投資が進行するに従って、徐々に成長する
ストック部分のメンテナンスと、その価格変動に
大きな忍耐力を求められることになるでしょう・・・
私は積立投資は非常に有効な投資手法だと思いますが、
積立投資にこそ手間や努力が必要だということを、私たちは、
最初から認識しておく必要があるのではないでしょうか。
では、今回はこのへんで。
(2009年7月7日)
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