ドル安と香港株
みなさんこんにちは。

前回に続きまして、今回も米ドル安と資産運用に
ついて少し考えてみたいと思います。

世界を見渡せば、米ドルにペッグしている通貨が
いくつかあるわけですが、それらの国の株は「ドル安耐性」
がないと考えてよいのでしょうか。

身近なところでは例えば香港H株です。

香港H株は、拠点を中国本土に置き香港市場で売買される
企業の株式を指します。

たとえばBYD(注)という会社が香港H株市場に上場しています。

この会社はもともと中国のリチウムイオン電池のメーカーでしたが、
ここ数年はむしろ電気自動車メーカーとして注目を集めています。

注)香港市場(コード01211)正式名称は比亜迪股フン有限公司、
1995年設立、2002年上場、2009年バフェット氏の傘下企業が
出資、自動車販売は昨年対比で倍増ペースで伸びている。

なぜ電池メーカーが自動車を・・・と不思議にお思いかも
しれませんが、エンジンが不要な電気自動車の心臓部は、
既にリチウムイオン電池に移ったというわけで、彼らにとって
参入のハードルは高くはなかったのでしょう。

香港市場では、上場される全ての株式は香港ドルで
売買されており、もちろんこのBYD株も例外ではありません。

さらに香港ドルは米ドルにペッグしていますので、
仮にBYDの株価が香港ドル建てで動かなければ、(現在のような
米ドル安局面では)円からみると下落基調になってしまうわけです。

BYDに限らず米ドル安の進行に伴って、もちろん全ての香港株は、
円換算後の価値が下がりますので、結果的に
「香港株はドル安耐性がない」ということになってしまうわけです。

が、果たしてそうでしょうか・・・

ここで先ほどのBYDを例にとり、2008年12月期の主な財務
データをみてみましょう。

・売上高 26,788(百万人民元)
・純利益  1,021(百万人民元)
・一株あたり利益 0.500(人民元)
・総資産 32,891(百万人民元)
・総負債 19,554(百万人民元)
・一株当たり純資産 5.505(人民元)


ご覧頂いてお解りのように、上場市場は香港なのですが、
他の香港H企業と同様、BYDの拠点も中国本土にありますので、
その事業活動は香港ドルではなく人民元で行われています。

従いまして当然のことながら、同社の各種財務指標は上記のように
全て人民元建てで成り立っているわけですが、このことは香港H株と
為替について考える場合とても大切です。

つまり要約しますと香港H株は

□売買は香港ドル建てで行われている
□事業活動は人民元建てで行われている

という二重の構造にあるわけですね。

香港H株は、香港ドル建てで取引されてはいますが、
中身は人民元建て資産と考えるべきでしょう。

現在のように香港ドル/人民元ともに米ドルに(事実上)ペッグ
している場合は解りやすいですね、米ドル安は即ち香港ドル安、
人民元安ですから・・・円からみると、株価/業績ともに低くなって
しまうわけです。

従って人民元が米ドルにペッグしている現状において、
「香港H株はドル安耐性はない」といってよいでしょう、
要するに香港H株への投資は、米ドル資産を保有していることと
大差はありません(注)。

(注)ただし、中国企業は人民元安を利用して業績を拡大
できますので、そこまで考えれば香港株は、現状でも
ドル安耐性がある資産といえるのですが・・・結構深いでしょ。

では例えば今後、中国政府が米欧の圧力に屈し、再び人民元の
切り上げを始めるとどうなるでしょうか。

例えば

・米ドルと(米ドルにリンクする)香港ドルは日本円に
対して安くなる

・人民元は米ドルに対して切り上がり、その結果日本円に
対しても若干強くなる


こんな状況を想定してみましょう。

言い換えれば『米ドル(香港ドル)→日本円→人民元』の順に
強くなるイメージです。

この場合例えば「1元=1.1香港ドル」→「1元=1.2香港ドル」
といった感じで、香港ドルからみた元の価値が上がってゆく
わけですね。

これを先ほどのBYDの財務指標に当てはめるとお解りのように、
元高が進みますと、香港ドルからみた同社の売上、利益、
一株当たり利益になどが、その分大きくなるわけです。

この場合当然香港市場で売買されるBYD株の価格も
上昇することになりますので、BYD株はドル安耐性を持った
資産と言えるわけです。

以上みてきましたように、香港H株投資といいますのは、
表面的には香港ドル建て投資ではありますが、本質的には
人民元建て投資と大きな違いはありません。

現在のように米ドルに対して香港ドルと人民元がそろって
ペッグしている状態では、香港H株は「米ドル安耐性」を持ちませんが、
今後人民元が米ドルに対して切りあがってゆくなら、香港株
の「ドル安耐性」は復活することになるといえるでしょう。

もっともこれは「ドル安耐性があるかないか」のみに的を絞った、
いわば二階部分のお話しで、香港H株という建物の一階部分には、
中国という国の成長性があるわけですし、また先ほど申しました
ように、現在のように人民元が「安くなる米ドル」にペッグしている
状況では、その一階部分の成長性はより速くなるということも
心に留めておくべきでしょう。

以上3回にわたってみて参りましたように、為替と金融商品の
関係はなかなか教科書通りというわけにはゆきません、ただ
共通する原理を押さえておけば応用が効きますので、皆さんも
折に触れこの問題についてお考えになってみてはいかがでしょう。



では、今回はこのへんで。
(2009年12月1日)




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