機械的分散投資の落とし穴
みなさんこんにちは。

過去の経験から学ぶことはとても重要なことですが、
将来が過去の繰り返しだと考えるのは、危険なことだと
私は思います。

例えば過去のチャートをみて、将来の株価を予想する
テクニカル分析。

私自身テクニカルアナリストではありますが、よくある
型にはまったテクニカル分析を全く信用していませんし、
自身の株式投資で使ったこともありません。

過去の相場の形状は、あくまで過去のもの、
相場はその時々の経済状況と人間の心理が、微妙に共鳴する
なかで形作られるものではないでしょうか。

延々と繰り返される相場において、たまたま過去のある時期の
相場形状と似たカタチが出たとしても、それはあくまで
"たまたま"であり、その後の相場が過去と同じカタチに
なるとは私には思えません。

そもそも過去の相場は、当時の経済状況と人間の心理の
共鳴の結果形成されたものであるはずです。

そのような背景を一顧だにせず、結果的に形成された
"相場のカタチ"のみを比べてみたところで、何の意味が
あるというのでしょう。

やはり相場の予想は、あくまで経済と人間の心理を先読みして
行われる、いわゆる「フォワード・ルッキング(先見性が要求
される)」な作業ではないかと私は考えています。

ではなぜこのように単純なテクニカル分析が、多くの専門家
と称する人によって行われ、もっともらしく伝えられるの
でしょうか。

いくつかの理由があると思いますが、最大の理由は
「なんとなく専門的で、それらしく聞こえる」という、
極めて単純なものではないでしょうか。

あるいはテクニカル分析のマニュアルさえ持っていれば、
誰でも専門的で学問的な話ができるという意味で、ビジネスに
馴染みやすい点もあるでしょう。

さらに資産運用の世界を見渡せば、このテクニカル分析のように、
マニュアル化された投資分析手法を他にもみることができます。

例えばポートフォリオ構築に関する、機械的な分析手法です。

一般には投資対象のリスク・リターンと各商品間の相関性を入力し、
最も効率的なポートフォリオを構築するという手法で、
これは「現代ポートフォリオ理論」に裏打ちされた手法
といえます。

この手法も先ほどのテクニカル分析と同様、一見とても学問的で
専門的にみえるのですが、よく考えてみるといくつかの大きな
問題点があることがわかります。

まず第一にやはり「将来は過去の繰り返しではない」という点です。

たとえば世界の経済はここ数年で大きく様変わりしています、
かつての後進国は、数年前から新興国と呼ばれるようになり、
いまでは世界経済の成長の原動力になっています、これら地域
の株価の動きは、ここ数年で大きく変容を遂げており、もはや
数年前のデータで計ることはできません。

さらにその新興国の経済発展に伴って、コモディティ相場でも
大きな地殻変動が起きています。

原油や非鉄金属、貴金属から農産物まで、かつての相場の
形状も現在では一変し、株や債券など伝統的な資産クラスとの
相関性も、既に大きく変わってしまいました。

このように各分野で大きなパラダイム・シフトが起こるなか、
過去のデータのみに依存したポートフォリオ構築に、いったい
どれほどの意味があるのでしょうか。

ヘッジファンドとて同様です、ヘッジファンドの原資産は
そもそも株であり債券であり、またコモディティである
わけです。このような原資産の相場形成ロジックに、大きな変化が
みられるなか、ヘッジファンド自体の相場形成も、常に
変容し続けているとみておくべきでしょう。

しかもポートフォリオのリスク・リターン分析は、統計学的にいえば
組み入れる資産に一定期間以上の運用実績がなくては意味がありません、
例えば5年程度しか運用期間がないファンドを、言い換えれば
月次データで60ほどしかサンプルが無い金融商品を対象に、機械的かつ
単純な手法で行うポートフォリオ分析に、はたしていかほどの意味が
あるのでしょうか。

私は何も「現代ポートフォリオ理論」が間違っていると
いうつもりはありませんし、私自身も予備的資料としては
よく利用しています、が過度な依存は禁物と考えておくべき
ではないでしょうか・・・先ほどのテクニカル分析と同様に。

私は資産運用にはあくまで「フォワード・ルッキング」な
姿勢が求められると思いますし、それは決してマニュアル化
できない、地道で骨の折れる作業だとも考えています。

では、今回はこのへんで。
(2010年4月20日)




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