金融不安はなぜ繰り返されるか

みなさんこんにちは。

1990年代後半から2003年にかけ日本で起きた金融不安。

2008年に米国で起きた金融ショック。

そして2009年に始まり、いまだに解消しない欧州不安。

なぜこのような深刻な金融不安が、しかも先進国発で
たて続けに起きるのでしょうか・・・

今回はそんなお話しをさせて頂きます、
いつもセミナーでこのお話しをさせて頂きますが、
セミナー以外でお話しするのは初めてです。

セミナーと違って図を使えませんが、
できるだけ解りやすくお話ししたいと思います。

まず、このような深刻な危機がたて続けに起きるのは、
いまの世界の経済なり、社会なりに構造的な問題が
あるからだと私は思っています。

その構造的な問題とは何か・・・

一言で申し上げれば、『先進国の成長鈍化と新興国の高成長の
組み合わせ』ではないでしょうか。

実はこの構図は今に始まったことではありません、
第二次大戦以降だけをみても、例えば新興の日本やドイツが
急速に台頭したり、あるいはそれに続いて台湾や韓国が急速な
経済発展を遂げるといったことを世界は経験済みです。

ところが当時と現在を比べますと、明らかに世界経済は安定感を
欠いているように思います。なぜでしょうか。

もちろん数十年の時を経ていますので、大小取り混ぜ
さまざまな違いはあるでしょう、が私が考える当時との
最大の違いは、追いついてくる側である新興国経済の、
相対的な大きさにあります。

例えば第二次大戦後に急成長した日本やドイツの経済を
みてみますと、両国のGDPを併せても、1960年前後で
世界の10%程度を占めていたに過ぎません(注1)。

対して現在の新興国はといいますと、世界全体のGDPに占める
割合は、既に30%を越えています(注2)。

注1)「アンガス・マディソン著:世界経済の成長史」より、
   1960年時点の日独両国の購買力平価GDP比合計。

  
注2) 2010年IMF統計による


つまり現在の新興国の経済は、当時と比べおよそ3倍の影響力を
もっているということになるわけです。

加えて重要なのは、その新興国グループと先進国グループの
経済成長率が、極めて大きく乖離している点ではないでしょうか。

この経済成長のかい離は、世界経済や社会にとって
大きな不安定要因になります。

例えば米国は昨年QE2と呼ばれる金融緩和政策をとりましたが、
あれは米国の経済が想定以上に弱く、放っておけば再び後退期に入る
懸念があったからです。

日本や欧州にしても同様ですね、経済の回復は常に弱々しく、
もはや緩和的な金融政策は常態化してしまっています。

つまり先進国グループは、その潜在的な成長力の低さゆえ、
常に緩和的な政策をとらざるをえないわけです。

一方で新興国のほうはどうでしょうか。

先進国側でとられる緩和的な金融政策の割りを食い、
逆にこちらは常にインフレ気味です。

例えば昨来から今年にかけ、中国で物価上昇が深刻な
社会問題になりました。

もちろん中国の国内要因もありましたが、原因の一つはQE2はじめ、
先進国側でとられた緩和的な金融政策であったことは間違いないでしょう、
当時中国が米国のQE2を強く批判したのはご承知の通りです。

重要なのは、このような新興国で起きる深刻なインフレが、
新興国だけの問題にとどまらないということです。

かつてのように新興国の影響力が小さければ、新興国側の
このような政策は、あくまでローカルな問題として、さほど先進国に
影響を及ぼさなかったに違いありません。

現状30%のシャアをもつ新興国経済は、もはやローカルな存在では
なく、すでに世界の一方の極としての実質を備えている
といってよいでしょう。

インフレを抑制するため、彼らがとるインフレ抑止策、
すなわち金融引き締めは、今度は大きな逆風として、
先進国経済に返ってくることになります。

世界的に経済成長ゼロのラインが上昇し、その結果新興国の
経済は過熱から解放されるが、その対極の先進国側は、
マイナス成長に陥るというイメージです。

以上の流れをまとめますと、下記のようになります。

1.先進国による緩和的な金融政策の継続
2.世界的なインフレ傾向を誘発
3.その結果、ただでさえ過熱気味な新興国でインフレが進行
4.インフレ抑制のため、新興国による金融引き締め
5.世界経済の成長性は鈍化し、先進国が景気後退に陥る
6.先進国発の金融不安の発生とその収束
7.上記1に戻る

先進国と新興国の潜在成長率に、さほどの差が無ければ、
このような悪い循環は起きないでしょう。

また同様に、追い付いてくる新興国の経済規模がこれほど
大きくなければ、このような状態にならないはずです。

金融不安が経済の後退期に起きやすいことは、
冒頭挙げさせて頂いた、過去の金融ショックの事例を
ご覧頂いても明らかです。恐らくそれはその時々抱えている矛盾が、
景気後退によって顕在化するからではないでしょうか。

そして危機は最も弱いリングが切れることによって発生する・・
それが上記6の段階です。

以上、私が考える金融不安の発生メカニズムです。

近年特に先進国は、財政上の大きな矛盾を抱えております、
上記のような循環が繰り返される限り、世界は構造的に
先進国発の金融不安に繰り返し見舞われる可能性が高い
のではないでしょうか。

次に切れるリングはどこか・・・いくつかの
候補が考えられますが、しょせんはカオスの世界、
へたに予測をすること自体が危険だと私は思います。

であれば私たちがとりうる防衛策はただひとつ、
質的かつ地理的な分散に尽きるのではないでしょうか。

ただし私はこの悪い循環の結末を、
決して悲観してはいません。

新興国が経済的に追いつき、いまの先進国グループと
一体化することによって、いずれ世界はこの悪い循環から
解放されることになると思います、特に焦点は
中国ではないでしょうか。

いまの不安定さはあくまで過渡期の一現象、
世界に新しい秩序ができあがれば、やがて収束に向かう
のではないかと私は思っています。




では、今回はこのへんで。

(2011年11月15日)




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