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過剰分配投信を持つリスク

みなさんこんにちは。

今回は米国のリート・ファンドに代表される、
過剰分配ファンドについてお話ししたいと思います。

初めに以下は国内で販売されている、代表的な米国(もしくは
米国を主な対象とした)リート・ファンドの基準価格と、
月額分配金、分配金利回りです。


□フィデリティ・USリート・ファンド(為替ヘッジなしクラス)

・基準価格 5,570円
・分配金月額 100円
・分配金利回り 21.5%


□ダイワ米国リート・ファンド

・基準価格 6,036円
・分配金月額 130円
・分配金利回り 25.8%

□ラサール・グローバルREITファンド

・基準価格 3,540円
・分配金月額  60円
・分配金利回り 20.3%

注1)上記のうち基準価格および分配金はいずれも直近のもの
注2) ラサール・グローバルREITファンドのみ、米国REITの組み入れ比率は
    直近実績で約60%、ほか2銘柄は100%

こうやって並べてみますと強烈ですね、
分配金利回りがいずれも20%を越えています。
一方で基準価格は運用開始時に設定される10,000円を
大きく割っています。

私がここであらためて申し上げるまでもなく、
これは異常事態で、お買いになる方々もこのような過剰な
分配金支払いは十分理解したうえで投資されておいでの
ことと思います。

ただ一方でいまだに過剰分配ファンドの問題点が、
十分に認識されていないような気も致します。

例えば売る側のセールストークをみてみますと、
上記3つのファンドのうち一つのファンドは、そのサイトの
なかで下記のようなコメントを行っています。

『2010年7月(第76期)までの決算を反映した運用報告書では、
当ファンドの1万口当たりの分配可能原資は7,145円となっております。

これら全てが将来、分配されるとは限りませんのでご注意いただきたいのですが、
分配余力という観点からは当面は十分な分配可能原資が確保されています。』

これをご覧になった方は、どのようにお感じになるでしょうか・・・

この『分配可能原資7,145円』というくだりご覧になり、おそらく大半の方は、
このファンドは分配を維持するに十分な収益をあげており、
余裕をもって分配している。このようにお感じではないでしょうか。

そして今後も現在の収益環境が続くなら、高い分配金の水準が
維持されるに違いない・・このようにお考えになり、多少分配金が
高いことを不可解に感じながら、投資を決められた方も多いのではないでしょうか。

ネットで配信するぐらいですので、きっと数多くの営業現場で
このようなセールストークが展開されているに違いありません。

ところがこの分配可能原資という言葉には注意が必要です。

分配可能原資と聞きますと、あたかもファンドの資産とは別建てで
お金が積み立てられていて、ファンドは将来そのなかから分配金を支払う
ような感じがしますが、決してそのようなことはありません。

分配可能原資といいますのは、分配金支払いに充当することが許された
会計上のお金で、これは当然投資家が保有しているファンドの中から支払われる
ことになります。

まあ簡単にいってしまえばファンドの時価総額から、規定上は
分配することが許されている上限の額といってよいでしょう。

これはあくまで会計上もしくは規定上のお話で、ファンドが
そこまで分配する実力をもっているか否かの基準で判断されて
いるわけではありません。

従って例えば分配可能原資が7000円以上あるのに、
そのファンドの基準価格が6000円しかない・・・このような
不思議な現象が起きてしまうわけです。

仕組み上このようなファンドは、投資家の持ち分を全額
分配金として支払うことも可能なわけですね。

もちろん全額を分配金として支払ってしまえば、
ファンドのなかみはカラッポです。

つまりこの分配可能原資はそのファンドの収益性とリンクするものでは
ありません、また長期的にそのファンドが分配水準を維持出来るか否かは、
将来そのファンドが得る収益と、支払う分配金のバランスによって決まる
といってよいでしょう。

仮に

収益>分配金

であれば、このファンドの分配金は長期にわたり維持される
可能性が高いということになります。が、逆に

収益<分配金

ということであれば、このファンドはいずれ分配金を

収益=分配金

というレベルまで減らす必要性に迫られることになるはずです。

逆に言いますと、これはあたりまえのことではありますが、
本来ファンドが支払うべき分配金といいますのは、収益の範囲内に
おさえるべきものだといえるでしょう。

ひるがえって先ほどの米国リート・ファンド達をみてみましょう、
現在の米国リート(注)の平均配当利回りは、5%前後だといわれています。

注)米国リート・ファンドが組み入れている原資産です。

やや保守的に他の収益源であるリートの値上がり益と、為替変動による
収益にあまり期待できないとみれば、この5%あたりが米国リート・ファンドの
収益率といってよいでしょう。

つまり米国リート・ファンドの長期的にみた適正な分配金利回りは、
5%程度(注)に過ぎないといってよいはずです。

注)繰り返しになりますが、リートの値上がりと為替変動による
  利益は見ていません。

冒頭申し上げたように、現在の代表的な米国リート・ファンドの
分配金利回りは20%を越えていますが、この点から考えて、
これはどうみても過剰分配といってよいでしょう。

ではこの過剰分配・・このまま続くとどういうことがおきるので
しょうか。

もちろん放っておいても、神風(注)が吹かなければ、
いずれかつてのグロソブのように、自ら分配金を減らさざるを得なく
なるときが訪れるはずです。

注)例えば急激な米国リートの価格上昇、あるいは円安。

あるいはそれを待たなくても、外部から強制的に過剰分配を止められて
しまう可能性もあります。

現在金融庁は投資家保護の観点から、このような過剰分配に
対する規制の導入を検討しており、早ければ2013年の通常国会に、
投資信託法の規制法案として提出される可能性があります。

もちろんそのあとの国会の審議によって、法制化されるか否かが
決まるわけですが、世界に目を向けてみればこのような規制は
珍しいものではなく、すでに米国、英国、フランスでは、
ファンドの過剰分配は法律によって禁止されています。

いま大半の投資家は、高い分配金を目当てにこれらファンドを購入して
いますが、仮に分配金に関する規制が導入されたとすれば
どうでしょうか。

大勢の投資家は一斉に解約に走り、
その結果これらファンドの運用資産残高は急減し、
最悪の場合、運用を継続できなくなる可能性も否定はできません。

証券会社の打撃は決して小さくはないと思いますし、保有されて
おいでの方の混乱も避けがたいでしょう、ただしいまの状態はどう
考えても正常な姿とは思えず、これは今後日本の証券業界が健全化するための
一里塚になると私は思います。



では、今回はこのへんで。

(2012年5月29日)



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