■中国発の危機はあるか
みなさんこんにちは。
ここのところ中国のシャドーバンキング問題が、
注目を集めていますね。
ジョージ・ソロスさんなども、かつての
サブプライム・ショックに似た状況になりつつある
といった趣旨の発言をしているようです。
今回はこの問題について、
少し考えてみたいと思います。
そもそもなぜこのような銀行を介さない、
投資の仕組みが中国で急に増えたのでしょうか。
まずお金を運用したいと考える国民側の
事情をみてみましょう、日本など先進国と違い中国は、
国民による海外の金融商品での運用が認められて
いません。つまり閉鎖的な運用環境に置かれている
といってよいでしょう。
一方で国内をみても、例えば預金の金利が
法律で定められており、現在1年物の定期預金の
金利は3.3%にすぎません、3.3%といえば、
我々日本人からみれば十分な気もしますが、
中国のインフレ率は2%台なかばです。
つまりインフレ調整後の実質的な預金金利は、
低水準にあるといってよいでしょう。
このような環境のなか、お金を運用する国民側が、
なんとかして高い収益を得たいと考えるのは、
あるいみ自然の流れでしょう。
これに対し、お金を集めたい側はどうでしょうか。
中国の場合、先進国と違って地方政府(日本でいうところ
の地方自治体)は、基本的には債券を発行して、
直接市場からお金を集めることができません。
一方でかれらは長らく、市や省といった地方政府レベルの
経済成長率を、中央の政府から競わされてきました。
地方政府の評価の多くの部分は、経済成長率によって
決まったといえるでしょう。
債券によってお金を調達できない地方政府は、
融資平台と呼ばれる、いわばファンドを設立し、
銀行を介さず直接国民の投資を受け入れ、
そのお金でさまざまな投資を行ってきたというわけです。
このようにして、より高い収益を求める国民と、
より高い成長を求める地方政府が、融資平台を
介して結びついて生まれた金融システム。
これが中国版シャドーバンキングといってよいでしょう。
ではこの構図のどこに問題があるのでしょうか。
一つ目は最終的な投資先がもつ信用リスクです。
最終的な投資先は、先ほども少し触れましたが、
例えば道路や鉄道、あるいは不動産開発や鉱山開発など、
地方政府にとって、手っ取り早く経済成長の果実が
得られる大型の構造物の建築です。
我が国のバブル時もそうでしたが、これらの大型インフラ事業は
一旦不稼働状態に陥ると、事業の継続が難しくなります。
ましてや中国の場合、上記のように出資者に対して、
例えば10%程度の高い利払いが求められますので、
自転車と同じで止まることは許されません。
もちろん止まれば即破綻です。
逆にいえば投資家に10%の利払いを行えるほど、
高い収益率が常に要求されるといってよいでしょう。
ここのところの鉄鉱石や石炭価格の下落で、
はたして開発した鉱山の採算はあうのでしょうか。
都市近郊に出現した大規模不動産やショッピングセンター
のなかには、既にゴーストタウン(鬼城)化したものも
あるようです。
二つ目はシャドーバンキングの規模です、
現状のシャドーバンキングの規模は、銀行が販売
した分だけで10兆元(約170兆円)に上ると言われています。
それにしても銀行が銀行外金融(シャドーバンキング)を
手がけるなんて面白いですね・・・
いやいや面白がってはいられません、銀行がタッチしない
部分を含めると、中国のシャドーバンキングの市場はGDP比で
55%の31兆元(約540兆円)ともいわれ、なんとこれは我が国
のGDPに匹敵する規模です。
このような数字をみてしまいますと、さきほどの
ジョージ・ソロスさんの懸念も、あながち取り越し苦労
とは言えないような気もします。
では上記のことを踏まえ、
本当に中国発のシャドーバンキング危機は、
間近に迫っているのでしょうか。
まず気になるのはその残高です、
上記のように仮に540兆円もあればどうでしょうか・・・
自転車操業の高配当事業が多いので、
やはり一定割合の事業が破たんに追い込まれると
見ておくべきでしょう、例えば仮に向こう一年で
20%程度破綻するとどうでしょうか。
金額にして100兆円規模です。
正確な数字の記憶はありませんが、体感的にいえばこの
金額は、リーマン・ショック時に世界経済が受けた、
被災額の合計に匹敵するレベルではないかと思います。
先月実質破たんした山西省の理財商品のケースでは、
どうやら地方政府が償還金を拠出し、投資家の損失は
回避されたようですね。
ただしその償還額は500億円にすぎません、
100兆円といえば山西省のケースの2000倍に相当しますので、
これは地方政府の問題ではなく、間違いなく中央政府レベルの
問題だといえるでしょう。
中国の場合、中央と政府の債務残高の合計は、
いまのところ対GDP比で60%程度と言われています、
新興国の場合この60%程度が境界線で、これを超えると
警戒水域に入るとされています。
さらに中国の場合、旧鉄道省が抱えていた年金債務が
大きく、これを含めて勘定すると、債務の合計は90%を
超えるとも言われます。
この状態でGDP比で55%に上るシャドーバンキングの
一定割合が破たんすればどうなるか・・・
もちろんGDP比55%の塊が、近々すべて破綻することは
ありえませんが、それでもその一定部分が毀損するだけで、
中国当局にとって、かなりの負担になるはずです。
いっそのこと破たんに任せてしまうという禁じ手も
なくはありませんが、その所有者は最終的には国民です、
当局にとって一番避けたいのは民衆による不満の暴走で、
まずこの選択肢はないでしょう。
当局にとって唯一の選択肢は、新たな融資並台の
設立を認めないこと。そして時間をかけて少しずつ
償還率をさげながら軟着陸すること・・・これに尽きるのでは
ないでしょうか。
ただしそれがうまくいったとしても、
果たしてマネーの暴走を当局が制御できるか否か、
予期せぬ出来事によって、制御不能に陥ることは無いか。
今後の焦点はここいらあたりだと思いますし、彼らは
かなり狭い道を進むことが求められると思います。
いずれにしても最悪のシナリオを、
一応頭の中に描いておくべきではないでしょうか。
では今回はこのへんで。
(2014年2月25日)
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