先進国の二者択一

みなさんこんにちは。

日本のインフレ率は1%前半まで高まってきましたが、
先進国全体でみると、むしろデフレ傾向が強くなって
きているといえるでしょう。

直近の欧米のインフレ率をみますと、
米国1.5%、欧州(注)は0.5%と、既に中央銀行の
目標値を大きく下回っています。

注)ユーロ圏18ヶ国の平均、2014年3月末現在

一般に中央銀行によるQE(流動性供給策)は
物価の上昇要因であり、国際的にみた現在のデフレ傾向とは
相容れません。

米国を例にとれば、FRBは2008年のリーマン・ショック以降
大量の紙幣を市場に供給してきました、昨年末からその
供給量を減らしつつありますが、それでも毎月4兆円以上
のドル紙幣が市場に供給され続けています。

これに対して実体経済の拡大は急には進みません、
つまり実体経済の価値に釣り合うドル紙幣の枚数は、
ここ数年で急速に増えてきたことになるわけです。

もちろんこれは通貨の価値の減少で、
インフレ要因です。

一方でここ数年の米国の物価上昇率は
以下のようになります。

・2008年 3.82%
・2009年 -0.32%
・2010年 1.64%
・2011年 3.14%
・2012年 2.08%
・2013年 1.46%
・2014年 1.40%

注)2014年はIMFによる推計

紙幣と実体経済のバランスだけをみれば、
QEによって物価は上昇するはずなのに、逆にQE期間中、
米国の物価上昇率は低下しつつあるといってよいでしょう。

米国以外に目を転じればどうでしょうか。

欧州では債務危機が収束しつつあり、
危機対応から行った流動性供給も今では行われていません。
それもあってかインフレ率は0.5%まで低下してきました、
かつての日本と同じくデフレ傾向にあるといえるでしょう。

わが日本は黒田さんと安倍さんの努力でインフレ率は
1.3%まで高まりましたが、2%インフレ達成のため、
日銀は2年で2倍の円を市場に供給しようとしています、
まさに異次元の緩和と引き換えにして、やっと
緩やかなインフレ状態を人為的に作り出そうと
しているわけです。

以上を総括しますと、少なくとも日米欧の先進国経済の
基調は極めてデフレ的要素が強く、それをQEによって
何とか緩やかなインフレ状態に誘導しようとしている。
現状はこんなところではないかと思います。

ではなぜこのようなデフレへの引力が働くのでしょうか。

最大の理由は社会が成熟し、ヒトが新しいモノを
さほど望まなくなったからだと僕は思います。

例えばまだ冷蔵庫がなかった時代・・・私たちは
モノを腐らさず長期的に保存する手段を持ちませんでした、
冷蔵庫の登場は生活に革新的な変化をもたらしました。

冷蔵庫、ラジオ、テレビ、エアコン、洗濯機、掃除機、
自動車、電子レンジ・・・

みな同じです、生活者は次から次に新しいモノを望み、
反対側でそれらを製造する企業は巨大化し、
彼らは原材料や設備、労働力を次々に拡大投入する。

こうしてモノや労働力に対する需要は増え、結果的に
それらの値段は上昇し続けたといってよいでしょう。

このようにして日米欧では、技術の進歩と歩調を合わせる
かたちで、徐々にインフレ環境が定着していったのでは
ないでしょうか。

ただしこれは私たちにとって既に過去のお話し・・・

いま私たちは周りを見渡して、
かつてのように購入したいと思うモノはあるでしょうか。

確かに自動停止装置がついた車があればいいなとは思いますが、
そのためだけに買い替えるというほど魅力は感じません。

冷蔵庫も省電力になっているそうですが、
買い替えはいまあるヤツが壊れたときで十分でしょう。

スマホやタブレットPCは欲しい気もしますが、
よく考えてみれば、これらはガラケーやノートPCの
置き換えと言えなくもありません。

スマホではいろんな便利アプリがあるそうですが、
それらを制作する側から見ると、冷蔵庫やエアコンに比べ、
必要とされる設備への投資、あるいは必要とされる原材料や労働力は、
ごく僅かなものではないでしょうか。つまり経済の総需要への
貢献がさほどあるとは思えません。

このように社会の成熟化によって、構造的にモノや労働力
に対する需要は徐々に小さくなりつつあるのでは
ないかと思います。

これを一言で表現するなら、総需要の減少です。

これに対して私たちが既に所有してしまっている
設備や労働力、言い換えれば供給力を減らすことは
難しいでしょう。

このようにして起きた需要と供給のギャップ・・

つまりこれがデフレへの引力というわけです。

仮にこの考えが正しければ、デフレは一時的な現象では
なく、構造要因によって起きているといえるでしょう、
であれば少なくとも先進国社会では、デフレ傾向が
定着するといってよいはずです。

これに対して私たちの選択肢は二つ。

一つはこのデフレ傾向を、先進国の住人が甘んじて受け入れる
ということでしょう、モノの値段が少しずつ下がり、
経済の拡大速度は鈍化する。その結果、新興諸国との経済格差は
徐々に縮まることになるでしょう。

ただしそれでも今の生活水準が下がることは無いはずです。
比較感のなかで新興諸国の生活水準に接近するという
だけのお話しです。

それをあえて甘受するのも一つの選択肢では
ないでしょうか、ただしこれを選択するほど
我々は成熟していないような気もしますが・・

極言すれば、常に大衆迎合的な政治のもとで、
この選択肢の可能性は低いとみておくべきではないか
と僕は思います。

二つ目は人為的にインフレを起こすという考えで、
これはつまり現在のQEの断続的挙行です。

この場合先進諸国の経済成長の維持は可能でしょうが、
マネーの総量と実体経済のバランスはさらに不安定になり、
突発的な経済危機発生のリスクは、今後ますます高まるでしょう。

いすれにしても先進国の住人にとって、
なかなか難しい時期にきていることは間違いないと思います。

 

では今回はこのへんで。

(2014年5月13日)




 




このコラムが一週間早くお手元に届きます
当社代表の田中が週に一回お届けする無料メルマガ「一緒に歩もう! 小富豪への道」
は下記からご登録いただけます。

「T's資産運用コラム」と同じ内容を一週間早くご覧いただけます、是非ご登録ください。

【購読登録】 メールアドレスご入力ください :
『まぐまぐ!』から発行していますので、ご安心ください。
totop