「標準偏差を使って金融商品のリスクを測定しましょう」
今回は金融商品の「リスク」について考えてみたいと思います。まず一口に「リスク」といっても、いろいろなモノがあります。
例えば、「信用リスク」や「流動性リスク」
「信用リスク」はその金融商品の発行主体が破綻し、証券が無価値になる(あるいは著しく価値が損なわれる)リスクのことです。
債券の発行主体が破綻するリスクや株の発行会社が倒産するリスクがこれに該当します。
「流動性リスク」というのは、その金融商品の市場が小さく売買がしにくい、特に売ろうと思ってもなかなか売れないリスクを指します。
もちろんこれらも重要なリスクの一つなのですが、投資の世界でリスクといえば、なによりも「価格変動リスク」を指す場合が多いようです。特にヘッジファンドの概要書などで、断りなく「Risk ○○%」という具合に書かれていれば、それは「価格変動リスク」を指すと考えてもいいでしょう。

「価格変動リスク」というのは、その金融商品の値動き(ブレ)の大きさを示します。
価格の一時的な下落率が大きな商品を「ハイリスク」というのは理解できるのですが、価格が一時的に大きく上昇する商品も同様に「リスクが高い」といえます。
少し不思議な感じもしますが、あらゆる金融商品はずっと上がり続けることはありえません。
一時的に激しく価格が上昇する商品は、いずれその逆もあるわけですね。したがって、そこまで広げるて考えると、価格の上昇幅の大きな商品もハイリスクのうちというわけです。

さて、この「価格変動リスク」、投資の世界では極めて重要な考え方であります。
ここからは「価格変動リスク」について、さらに深く掘り下げて考えてみたいと思います。
多くの皆さんはこの「価格変動リスク」を感覚的に捕らえることはできると思います。
例えば「この商品はブレが大きいな」とか「安定した商品だな」といった具合に...
でも、このリスクを数値化し、客観的に見られたとすれば便利だと思いませんか?

少し頭が痛くなる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は「価格変動リスク」は「標準偏差」(単位は%です)という尺度を使って数値化することができるのです。
数値化ができれば、単に「ブレが大きいな」ではなく、「どの程度の強さでブレるのか」が個人の主観に頼らずに客観的に知ることができます。
また、投資家はその数値を参考にして、金融商品を選ぶことができます。
例えば、

・年間の平均リターンが30%
・「標準偏差」(あるいは「リスク」)8%

と言えば、年間のリターンは平均値である30%を中心に上下8%内に68%の確率で収まる金融商品であることを表しています。




これをグラフで表したのがグラフ1です、斜線の部分は年間の平均リターンである30%を中心に左右8%(左側 30%−8%=22%、右側 30%+8%=38%)の広がりを示してします。
言い換えればこの金融商品の年間リターンは22%から38%の間に約68%の確率で収まるということを意味しています。
(この68%という数値は斜線の部分の面積を計算する事により算出できます、正規分布(注)を前提にすれば、グラフの高さ、左右の広がりに関わらず、標準偏差1つ分左右に広げると、必ず全体の68%をカバーできることになります)
「正規分布」:グラフ1から3のように釣鐘を伏せておいたような左右対称の確率分布のこと、統計学上は計測するサンプルの数を増やしてゆくと、このような分布になるとされています。
では、これが

・年間の平均リターンは上記と同じく30%
・「標準偏差」20%

だとどうでしょうか?グラフ2をご覧ください。

この場合、平均値を中心に±20%の範囲(言い換えれば10%から50%の間)に68%の確率で収まることになります。
グラフの形状をみても、グラフ2はグラフ1に比べ、随分と左右に広く分布しているのがお解りだと思います、これはグラフ2の商品のほうが1よりバラツキの大きな商品だということを示しています。
さらに言えば、この「標準偏差」を2倍まで広げると、全体の95%をカバーすることができます。
例えば先ほどの「標準偏差」8%、年間平均リターン30%の商品は、平均値を中心に上下16%(8%×2=16%)まで広げると、全体の95%までカバーすることができるというわけです。(グラフ3参照)

例をあげてご説明しましょう。
以前、クアドリガ社のスーパーファンドBというヘッジファンドは、(会社側の資料によりますと)

・年間の予想平均リターンが+45%
・想定されるリスクが30%

だというお話を致しました。

この商品は予想平均リターンが+45%ですので、今100万円分購入したとすれば、1年後には平均値で145万円(もちろん予想ですよ)になります。
これに対し、「リスク」(=「標準偏差」)が30%ですので+45%に対し、プラス/マイナス30%の範囲の中に68%の確率で収まることになります。

即ち

・下は45%−30%=15%(115万円)
・上は45%+30%=75%(175万円)

となり、言い換えれば、このファンドは一年後に115万円から175万円の間に68%の確率で収まる事になります。

さらに、先ほど申しましたように「標準偏差」2つ分(30%×2=60%)まで上下に広げると、95%までカバーすることが出来ます(ただし、いずれも正規分布を前提としています)。

・下は45%−60%=−15%(85万円)
・上は45%+60%=105%(205万円)

の間に95%の確率で収まる事になります、通常「標準偏差」2つ分見ておけば、ほぼ全体をカバーできると考えていいと思います。
この「リスク」に対する考え方を憶えておくと、とても便利ですよ。
日本の投資信託では、成績を表す指標として、「リスク」をあまり用いてきませんでしたが、海外のファンドでは、この「リスク」を投資尺度に使うのが言わば常識になっています。
皆さんも是非身につけて頂ければと思います。

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