また始めるのか大規模公共投資

みなさんこんにちは。

最近アチコチで「ヘリコプターマネー」という言葉を、
耳にするようになりました。

もともと「ヘリコプターマネー」は、前FRB議長のバーナンキさんが、
学者時代に好んで使た言葉で、簡単にいえば以下のような内容です。

紙幣を大量に刷って空からお金を降らせれば、市中のお金の量が増える

お金が増えれば一枚当たりの紙幣の価値は下がる

紙幣の価値が下がれば相対的なモノの価格が上昇する

したがって空から降らせるお金の量を調節することによって、
ゆるやかなインフレ状態へ誘導できる

この理論はリーマン・ショック直後にFRBが採用した
金融政策の支柱であり、米国の流動性供給策(QE)はこの
考えを背景に行われたといってよいでしょう。

あれからすでに7年近くの月日が流れ、本家の米国でQEが停止され
久しいのですが、なぜわが国でヘリコプターマネーという、
亡霊のように古びた言葉が再び脚光を浴びるようになったのでしょうか。

まず最近よく耳にする「ヘリコプターマネー」は、
紙幣を刷ってインフレに誘導するという意図よりも、
むしろかつてのように巨額の公共投資時代
への回帰が主目的のような気がいたします。

つまりこの「ヘリコプターマネー」論の主な目的は公共投資で、
そのお金の調達手段としてQEを利用しようとしているのでは
ないでしょうか。

つまり主客の逆転です。本末転倒といってもよいでしょう。

ただし紙幣を刷る権限を持っているのは日銀です。建前では
日銀は政府から独立していますが、日銀の審査委員(注)を
実質的に決めているのは政府です。

注)日銀の政策は9名の審議委員の多数決によって決まります、
  審議委員を誰にするかという案は政府が提示し、国会で承認されます、
  現状では与党が多数を占めていますから、実質的に審議委員を
  決めるのは政府だといってよいでしょう、しかも現在9名いる
  審議委員のうち6名(6月で任期が切れる一名を含めれば7名)は、
  すでに政府とフェーズがあった金融緩和派で占められています。

したがって今の日銀は、とても政府から独立しているようには
みえません。

たとえば政府が新規に発行する国債を直接日銀が買う行為(注)は、
財政の規律が緩み国債に対する信認が低下するため、原則的には
禁止されていますが、実質的にはどうでしょうか。

注)日銀による国債の引き受け

確かに現在のQE下で日銀は、直接政府から国債の買い取りを
行っていませんが、いったん民間の金融機関が購入した国債を、
実質的に日銀がすべて購入する状態になっています。

つまりすでに『疑似的な日銀による国債の引き受け状態』に
あるといってよいでしょう。

僕はこのような状況下での「ヘリコプターマネー論」を聞いていると、
1990年代の日本を思い出します、当時確か小渕さんが総理大臣で、
効果定かでない巨額の公共投資にのめりこんでゆきました。

当時野村証券にいたリチャード・クーや植草さんなどの
“ちょうちんアナリスト”にたきつけられて・・・

結局公共投資による財政の拡大は一時的な効果しか上げられませんでした。

その間加速度的に財政赤字は膨みましたが、赤字の垂れ流しに耐えられず
財政出動を止めれば、それでもうおしまい・・・残ったのは巨額の借金だけ。

その結果がいまの我が国財政の現状です。

構造改革に手を付けず、QEや財政出動をいくらやっても財政赤字が増える
だけで、経済は回復しないという経験を私たちはすでにしてきたはずです。

いままた「ヘリコプターマネー」などと目先を変えた”財政拡大+QE”
を行えばどうでしょう。

『実質的な日銀による国債の引き受け』を強化し、
政府と日銀が一体になって財政を際限なく拡大する懸念が
生じるのではないでしょうか。

もしそうなれば政府が財政出動にのめりこむ環境という面において、
小渕政権時代に似ているように思います。

一時的にはインフレ目標は達成できるかもしれませんが、
いずれ小渕政権の二の舞になるでしょう、しかも当時と比べ現在
の財政状態はさらに悪化しています。

さて先週安倍さんが欧州を歴訪されました。

目的は今月末、伊勢志摩で開かれるG7の地ならしだそうで、
ドイツやイギリス、フランスのトップと意見交換された
とのことです。

G7を成功させるために、必要なことだと思いますし、
日本の首相が各国の首脳と会合をお持ちになるのは
我が国にとっても重要なことだと思いますが、少し気に
なることがあります。

どうやら今回のG7で安倍さんは、『G7版三本の矢』
を提唱するそうですね。

それ自体は決して間違ってはいないように思います、特にわが国同様
金融緩和の限界が見えてきた欧州で、ドイツとイギリス以外では
財政出動に前向きの様子です。

僕は安倍さんの『G7版三本の矢』や欧州歴訪のお話しを聞いて、
安倍さんはもしかしたら日本国内で『安倍さん版ヘリコプターマネー』
を打ち出す地ならしを、今度のG7でやろうとしているのでは
ないかと勘ぐってしまいました。

僕の取り越し苦労であればいいのですが・・

 

では今回はこのへんで。

(2016年5月9日)




 




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