■イチかバチかの「頭金ゼロ45年ローン」
みなさんこんにちは。
ときどきお客さんから聞かれます。
「ワンルーム・マンションに投資しようと思うのですが、
どれくらい借り入れしていいでしょうか?」
このような質問の意図や背景は人によってさまざまですが、
極端なケースでは自己資金ほぼゼロで、
不動産を入手したいとお考えの方もいらっしゃいます。
近年ではノンバンクなどが「45年ローン」を提示するケースもあり、
このような超長期ローンを利用すれば、頭金ゼロでも
毎月1万円ほどの手残りがあります。
45年もローンを払い続けなくてはなりませんので、
借り手の年齢制限がありますが、例えばお若いサラリーマンなど
にとっては、どうやら魅力的な提案に映るようです。
45年にもわたって毎月1万円のお小遣いがもらえるうえに、
日本の財政破綻対策にもなると考えているのでしょう。
財政破綻を想定される方は、
財政の悪化⇒財政破綻⇒ハイパーインフレ⇒借金の実質価値ゼロへ
というように、我が国財政破綻によって、ご自分の借入金の
実質的な価値が小さくなる、あるいはほとんどなくなると
お考えのようです。
確かにハイパーインフレが起きるなら、
借金がたくさんあればあるほど有利です。
この点について皆さんはどうお考えになるでしょうか。
私などは臆病者ですので、
こんなお話を聞いていますと逆に怖くなってしまいます。
それほどこの「頭金ゼロ45年ローン」は突っ込みどころ満載なのです。
たとえば修繕費の発生や、家賃の値下げ圧力、空室の発生など、
老朽化に伴って起きる収益の低下を計算にいれておかなければなりません。
その問題を脇においても、「金利の上昇」という大きな問題があります。
このローンは変動金利ですが、金利が上がった(というか正常化した)
場合の収支勘定、つまりキャッシュフローはどうなるのでしょう。
現在ノンバンクが提示する45年ローンの金利は1.9%ほどですが、
もし金利が1%上がり2.9%になればどうでしょう。
その場合、借り手が支払う返済額の合計は
いったいどの程度に増えるのか、
以下の条件で試算してみましょう。
・物件価格+諸経費を2300万円
・頭金100万円、残り2200万円を「45年変動金利」で借入
・現在の金利1.9%がむこう45年間続く
・月々の家賃の手取り額75,000円(実質収益率4%)
この場合、毎月の返済額は60,640円で、返済金の合計は
約3270万円と計算できました。
これに対して手取り家賃は上記のように75,000円ですので、
毎月15,000円ほど手残りがある計算です。
では借りた翌月いきなり金利が1%上がり、
2.9%になってしまえばどうでしょう。
この場合の毎月返済額は72,991円となり、総返済額は
約3940万円になってしまいます。
このように金利が1%上がるだけで、家賃の手残りはほぼ
ゼロ(注1)になり、総支払額が670万円(注2)ほども
増える勘定です。
注1)75,000円-72,991円=2,009円
注2)3940万円-3270万円=670万円
ローンの支払期間が長いので、わずかな金利の上昇によって、
このように総支払額と月々の支払額が大きく増えるのです。
ではこの支払金利1%の上昇は現実的なのでしょうか。
私は十分あり得ると思います。
「45年ローン」の金利は、日本の超長期国債の金利水準に
連動すると考えられますが、足元の40年国債の利回りは0.57%に
過ぎません。
では過去この40年債金利はどのような動きをしてきたのでしょうか。
近年にみられる日本の低金利化傾向によって、この超長期金利も下がって
いるのですが、例えば10年前の40年国債の金利は2.3%ほども
ありました、現在のそれが0.57%ですので、今と比べると1.7%
ほども高い水準だったのです。
さきほどの試算は、金利1%の上昇で計算しましたが、
10年前は今より1.7%も高かったということです。
仮に「45年ローン」の支払金利が現在の1.9%から1.7%上がり、
3.6%になればどうなるでしょう。
この場合、毎月返済額は約82,000円に上がりますので、
それだけで手取り家賃75,000円を超えてしまい、
毎月7,000円ほどの持ち出しです。
複数の物件を持てば当然この金額も増えます。
確かに日本の財政が破綻する可能性は、ある程度みておく
必要があると思いますが、もし財政破綻が起きず金利が正常化すれば、
このように生活を圧迫することになるのです。
これでは日本の財政破綻に賭けるギャンブルと大差ありません。
万一への備えはよいことだと思うのですが、
それがかえって「平時の危機」を招くなら、
それこそ本末転倒です。
上記の「頭金ゼロ45年ローン」は、わが国財政破綻対策には
なりますが、逆に日本の経済が正常化に向かう場合、家計の
破綻を招きかねません。
なにぶん45年にも及ぶ超長期の投資です、
人によってわが国財政への懸念度合は違って当然です。
それでもこのように財政破綻に賭けるきわどい投資ではなく、
どちらに転んでも利が得られるような戦略が必要では
ないかと思います、
不動産は使い方によっては、
そのような活かし方ができるのです。
次回はそんなお話しをしたいと思います。
では今回はこのへんで。
(2019年5月22日)
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