なぜコインの世界で歪みは起きるか

みなさんこんにちは。

いつの世にも相場の歪みはあります。

たとえば株式や債券などの金融商品です。

金融商品の世界では日々大量のおカネが行きかっており、
おカネは歪みを見つけ収益を上げることに血まなこです。

たまたま歪みが見つかっても、
割安に放置されている銘柄にはおカネが流れ込み、
瞬時に妥当な価格に買い上げられます。

逆に割高な銘柄は空売りの対象になり、
こちらも瞬時に妥当な価格に戻ります。

ヘッジファンドなどは歪みを見つけることが主なお仕事で、
その歪みが元に戻る力を利用して儲ける手法をとります。

一つ一つの歪みはホンの僅かなものであっても、
レバレッジを効かせることによって、
大きなリターンを得ることができるのです。

面白いことに現物の世界でも、
しばしば歪みは生じます。

でも現物の世界で起きる歪みは随分と様子が異なります。

例えば歪みが解消されるまでの期間です。

ペーパーアセットの世界では、
歪みが解消されるまで長くても数日しかかかりませんし、
ホンの一瞬で解消することも珍しくはありません。

一方で現物の世界では、
歪みが何年にもわたり放置されていることも珍しいことではありません。

たとえば僕が好きなコインです。

日本で明治3年以降発行された一円銀貨(以下「円銀」)を例にとって
説明させていただきます。

僕はコインを集め始めて50年以上経ちますが、
その収集歴の大半を通し円銀は、
鳴かず飛ばずで割安感が漂うコインでした。

円銀は大きさは4センチ近くもありますし、
重さも27グラムほどもある立派な銀貨です。

また円銀は明治新政府がアジアとの貿易決済用に発行したコインで、
当時イギリスやフランス、アメリカなどが発行した貿易用銀貨と
肩を並べる国際性を持ったコインでした。

にもかかわらずこの円銀は、
大半の日本人から忘れ去られたかわいそうなコインでした。

値段も子供のお小遣いでも買えるほどでした、
はっきり覚えているわけではありませんが、
2000年あたりですら一枚3000円ほどで買えたはずです。

2000年といえば日本のコレクターが外国コインに目覚め始めた時期で、
たとえばドイツの大型銀貨ターレルは、状態のいいものなら
一枚10万円-20万円もしていました。

円銀の暗黒時代はその後も続きます。

そういえば10年ほど前だったと思いますが、
都内のあるコイン商の店頭で、僕は中国人がこの円銀を
片っ端から買っているのを目にしました。

それこそ「あるだけ全部売ってくれ」という感じで、
ザル一杯に入れていました。

店の人に「なんであの人あんないっぱい円銀買ってるの?」
と聞いたところ、

「いま中国で円銀が人気なんだって」

とのことでした。

当時すでに中国で同時代に発行された銀貨(「7銭2分銀貨」)の
人気に徐々に火がついており、比較感から円銀の安さに
彼らは目を付けたのだと思います。

まあ岡目八目というやつでしょう。

日本では当時一枚3000円が当たり前でしたが、
海外の収集家や投資家から見ると、本来の価値がよく見える
ということはよくあります。

そして10年ほどでたち、
「円銀ブーム」は突然やってきました。

今ならどんな状態の悪いツルツルに流通したコインでも、
1万円ほどの値が付きますし、希少年号で未流通状態なら
30万円の値を付けることもよくあります。

円銀だけではありません。

例えば日本人が大好きなエリザベートの「雲上の女神」、
1800年代後半に発行されたナポレオン3世の100フラン金貨、
ちょっと時代が下ってペルーの100ソル金貨、
もっと新しいところではインドネシア独立25周年のガルーダなどなど・・・

挙げ始めるときりがありません。

そこで僕は考えました、

「なんでコインの世界では、こんなにアチコチ歪みができて
しまうのだろう」

一つはおカネの性質にあると思います。

株や債券などペーパーアセットの世界とは違い、
コイン市場には投機目的のおカネはさほど入って来ません。

入って来るおカネの大半は収集を目的とした趣味のおカネで、
歪みを見つけてひと稼ぎしようなど考える人はさほどいないのです。

なので歪みが長期にわたって放置されることが多いのだと思います。

二つ目も上記と関係ありますが、
入って来るおカネが、
長い間一か所に滞留する性格を持っているからだと思います。

僕自身収集家だからよくわかるのですが、
例えば一つのコインにほれ込んで購入する場合、
よほどのことがない限り手放しません。

これはヨーロッパなど他国の収集家も同様で、
いったん買えば子や孫に譲り渡してゆくことも珍しくはありません。

大量のおカネが活発に動き回れば歪みの解消は進むのでしょうが、
上記のようにコインの世界ではそのようなことは起きないのです。

その結果、歪みが長期間にわたって放置されることが多いのだと思います。

三つ目は専門性の高さと流動性の低さです。

株や債券などペーパーアセットならキーボードのワンクリックで
買えてしまいますが、コインの世界ではそういうわけにはゆきません。

コイン商の店頭で買うにしても、
皆さんじっくりと吟味してお買いになりますし、
それだけ目利きが求められる世界でもあります。

オークションでの売買はもっと時間がかかります。

このように売買に時間がかかるという点、
言い換えればおカネの回転率の低さもまた、
歪みがなかなか解消されない理由の一つだと思います。

一方でこのようにコインの世界で見られる歪みは、
私たちに儲けのチャンスを与えてくれることになります。

例えば中国コインが急騰したとき、
そこから円銀の相場上昇はある程度先読みできました。

イギリスで同時代に発行された金貨の相場上昇を知っていれば、
フランス100フランの異様な安さに気づくことができたはずです。

ペルーの100ソルにしても同様で、
徐々にやってくる大型金貨の相場上昇のなか、
なぜペルーの100ソルが地金価格×1.5程度の価格で買えるのか、
不思議に思ったはずです。

そのような視点で世界のコイン市場を見渡しますと、
今でもアチコチ歪みを見つけることは難しくありません。

歪みをみつけることもまた、
コイン収集やコイン投資の醍醐味の一つです、
皆さんも一度お探しになってはいかがでしょう

 

では今回はこのへんで。

(2022年4月8日)




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