なぜ円は安いのか

みなさんこんにちは。

僕は18年以上この仕事をしていますが、
開業当初のことを考えると隔世の感があります。

振り返れば当時の私たちの不安や不満はつねに円高でした。

円が強すぎて日本が得意とする製造業の競争力が、
不当に弱められてるという不満を、
私たち日本人は持ち続けていたのです。

それが今では真逆です。

テレビや雑誌、新聞などをみても、
いまや円安は日本人共通の不安だということがよく
わかります。

特に経済に関心のない人たちにも、
物価の値上がりをとおして円安への不安が広まっているようです。

ではその円安の原因が何なのでしょうか。

この点に関して、
日銀のゼロ金利政策が原因だとする論調をよく耳にしますが、
ではなぜ日銀はゼロ金利を解除できないのか・・、
このように一歩進めた議論の深まりはあまりないように思います。

「なぜ日銀がゼロ金利を解除できないのか」という本質論をすっ飛ばし、
日銀や黒田さんを悪者のように扱うのは筋が違うと僕は思います。

では「なぜ日銀はゼロ金利を解除できない」のでしょうか。

一つは金利が上がると政府の利払いが増え、
さらに財政が悪化するからです。

政府の利払い費は、現在年あたり8兆円ほどだそうですが、
政府が発行してきた国債の残高は1000兆円ほど、
その平均的な残存期間は約9年です。

したがってすべての残存国債の金利が1%上昇すると、
年あたりの利払い費は10兆円増える勘定です。

先日政府は29兆円の財政出動を決めましたが、
なんでもたった一晩で4兆円も上乗せされたとききます。

このような財政感覚のマヒは、
いったいどうしておきるのでしょう。

日銀の低金利政策によって利払い費が低く抑えられており、
「多少財政を膨らましてもいいだろう」という、
一種の「ゆるみ」からきているのだと思います。

こんな状態で日銀がゼロ金利を停止すればどうでしょう。

この場合、利払い費が増えることによって、
財政の緊縮が求められるのは間違いありません。

そういう損得勘定もあり、
今の政府と日銀のあいだには、
ゼロ金利継続という「暗黙の合意」が形成されているのだと思います。

でもそれ以外にもゼロ金利が解除できない、
もっと本質的な理由があります。

いまから10年ほど前、
日銀と政府はゼロ金利政策で合意しました。

金利を本来のあるべき水準より低く維持することにより、
「経済活動の活性化⇒企業業績の拡大⇒賃金の上昇⇒自然なかたちでの物価上昇」
を実現するためです。

当時としては正しい処方箋だったと思います。

でもあれから10年経ち、
その間、政府が掲げた「規制改革⇒成長戦略」はいっこうに進まず、
日本経済は世界の中で地盤沈下するばかりです。

その結果、生産性は高まらず、
お給料は上がらず、
ひとりあたりGDPはお隣の韓国にも負けてしまいました。

日銀から見れば、
当初の目的である「自然なかたちでの物価上昇」が
実現されていないのに利上げはできません。

おそらくこれは正論でしょう。

したがって問題は日銀の政策ではなく、
「政府がやるべき規制改革⇒成長戦略」が
いっこうに進まないという点にあるといえるでしょう。

この問題を解消できない限り「自然なかたちでの物価上昇」は
実現できず、したがって日銀は金利を上げることもできません。

ちまたでは、かたくなにゼロ金利を続ける日銀への非難の大合唱ですが、
日銀が利上げできないのは政府が成長戦略を先送りし続け、
その結果、日本経済が地盤沈下し続けているからです。

つまり「改革できない日本⇒成長しない日本⇒ゼロ金利の継続⇒円売り」で、
世界はしっかりとそこを見て円を売っているのだと思います。

金利だけを見切り発車で上げてしまうという荒業もありますが、
それをやってしまうと経済に負荷がかかり、
再びゼロ成長とデフレが待っています。

そこを見越したうえ、
世界は成長戦略をとれない日本に対し、
円売りで答えているといってよいでしょう。

すでに日本人の富裕層の一部にも、
円から外貨建て資産におカネを移す動きが見えます。

つまり世界からだけではなく、
身内からも円売りが始まっているのでしょう。

目先アメリカにも景気後退期懸念がありますし、
年初から急に進んだ円安の反動もあります。

このような理由で僕は目先いったん円は買い戻されると思います。

でも、もし本当にそのような場面があれば、
それは長期的に見て外貨を買う良いチャンスになると思います。

10年間も手を付けてこなかった成長戦略に、
日本政府がこのタイミングで真剣に取り組むとは僕には思えないのです。

 

では今回はこのへんで。

(2022年11月4日)




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