■日銀の政策変更をどう消化すべきか
みなさんこんにちは。
今回は今年最後のメルマガです、
例年の最終号は当たり障りのないことを書くことが多いのですが、
今年はそうもいっていられません。
今回のメルマガを読んで皆さんは不安や不快感をお持ちに
なるかもしれません、それでも書いておく必要があると思い、
書かせていただきます。
一昨日、日銀は重要な政策変更を発表しました、
皆さんよくご存じだと思いますが、10年債金利の変動幅拡大です、
「変動幅拡大」といっても実質的には上限金利の引き上げで、
利上げの性格を強く持った政策変更でした。
まさか年末のこの時期に・・、
しかも黒田さんの退任が迫ったこのタイミングで・・、
さらに不意打ち的に・・、
10年続いた緩和と逆方向の政策を発表すると誰も考えておらず、
市場は不意打ちにあって動揺しました。
いったい私たちはこの日銀の政策転換を、
どのように消化したらいいのでしょうか。
今回はそんなところから考えてみたいと思います。
たしかに今回の「実質利上げ」は、
短期的に見ても大きな政策転換だったと思いますが、
僕はもっと大きな視点でこの出来事について考えるべきだと思います。
でないと今後の日銀の政策や、
日本政府のとるべき政策はみえてきません。
お話しは10年前にさかのぼります、
あのときから「ボタンの掛け違い」が始まったのだと思います。
一つ目の「ボタンの掛け違い」は「三本の矢」作戦の失敗です。
振り返れば2013年の4月でした、
安倍政権と黒田日銀は2%インフレに向け「合意」しました。
日銀がゼロ金利と大量紙幣印刷で時間を稼ぐあいだに、
政府が「成長戦略を策定⇒実施」し、日本経済を高成長軌道に乗せるというのが、
「三本の矢」戦略のキモでした。
でもこの10年を振り返ると、まともに機能したのは日銀の「ゼロ金利」だけです。
時間を稼いでいるうちに実行するはずだった構造改革は手つかずのまま、
結果的にこの10年、日本の競争力は弱くなる一方でした。
つまり時間の浪費です。
イヤ、むしろゼロ金利でカネを借りやすくなった政府は、
「三本の矢」のうちの「財政拡大」ばかりに熱心で、それがかえって構造改革を
先送りするという最悪の結果を招きました。
要するに政府も国民も会社も、「借金を増やして何とかなるんだったら、
好んで構造改革のようなイバラの道を歩かなくていい」という考えです。
そのほうが自民党は票を稼げるし、国民も企業も、ぬるま湯につかっていたほうが
ラクチンです、そんな三者の暗黙の合意のもと「構造改革」は先送りされてきたというわけです。
特に安倍政権の後半からは、
「構造改革?私たちそんなこと言ってましたっけ?」って感じでした。
さて二つ目のボタンの掛け違いです。
なにかと黒田さんへの風当たりが強い昨今ですが、
日銀は政府との「合意」を忠実に履行してきたに過ぎません。
上でお話ししたように、日本の競争力を上げるためには
「構造改革」のほうが主で、その時間を買うために「ゼロ金利」が
位置づけられていたはずですが、いつの間にか構造改革は
うやむやになってしまいました。
結果的に、安倍政権時代の後半からは「ゼロ金利」の一本足打法で、
日銀頼みに終始しました。その結果、金融政策は歪み、外資にそこを狙われ
日銀は徐々に追いつめられてゆきました。
最後のボタンの掛け違いは「市場との対話の失敗」です。
火曜日の政策転換はあまりに唐突だったと思います、
前回10/18時点で黒田さんはこのようにおっしゃいました、
「今すぐ金利引き上げとか、出口が来るとは考えない」。
たしかに10年債が外資の標的になり、それに抗しきれないという
やむを得ない事情はあったと思います、
きっとそこには、私たちのように内側を知らない人間には計り知れない機微があったのでしょう、
それでも市場を驚かすのはよくありません。
そもそも論で言えば、なぜそこまで追いつめられる前に・・、
市場の歪みが大きくなる前に、利上げをしなかったのか不思議です、
インフレ率が2%を超えた年前半あたりから、
利上げに向けた地ならしに入っておくべきではなかったでしょうか。
ゼロ金利にかたくなにこだわった結果、日銀の政策は歪み、
その結果、日銀は市場から追いつめられたといえるでしょう。
たしかにその点で日銀に責任はあると思います、
でも、その日銀にゼロ金利政策を強要し続ける一方で、
構造改革をないがしろにしてきた政府の責任はもっと重いと思います。
さらに言えばゼロ金利を享受して、
人事制度や給与体系など、
構造的な改革を行わなかった多くの企業にも責任はあると思います。
このように順を追ってまいりますと、
唐突な日銀の政策変更は、10年にも及ぶボタンの掛け違いの結果、
起きたと言えなくはありません。
もしこの見方が正しければ結構やっかいだと僕は思います。
構造改革に手を付けず、時間稼ぎのゼロ金利に頼り切ってきた日本は、
これから否応なく構図改革を迫られることになるはずです、
その結果、本来なら市場から退出を迫られていたはずのゾンビ企業は、
消えてゆくことになるでしょう。
日本全体でみれば、ゾンビ会社が抱え込んできた人材が流動化し、
成長領域に移動するのは好ましいことですが、生身の人間にすれば耐え難い
痛みを伴うはずです。
かといって構造改革を放棄すれば、
日本の競争力はさらに低下し、日本全体が地盤沈下することになるでしょう、
そしていつまでたっても日銀頼みは続きます。
日銀による低金利政策は続き、政府はチープなおカネを借り続け、
日本国民との暗黙の合意のもと財政を膨らませ続けるでしょう。
税収が増えないなか、
日本経済の規模に見合わない財政支出は維持不能になり、
いつか市場の反乱に向き合うことになるでしょう。
それが居心地の良いゼロ金利というぬるま湯につかり、
痛みを伴う改革を先送りしてきたツケです。
構造改革を進めるにせよ、
改革を先送りするにせよ、
いずれ訪れる痛みは避けようがないと思います。
では今年はこのへんで。
(2022年12月22日)
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