いつになったら政治は学ぶのか

「こんな時期に利上げをするのはアホやと思う」

これは自民党の総裁選に立候補しているある人が、先日(9/23)インターネットの番組で発言した内容です。

注)この記事は自民党の総裁選挙まえ9/26(木)に書いたものです

この人に僕は聞きたい。

「じゃあ、いつになったら利上げをしてもエエの?」

日本はもう25年にわたってゼロ金利政策を続けてきました、ゼロ金利政策の目的は、市中の金利を下げることによって企業や個人が借金をしやすくし、経済活動を活発にすることです。でも過去25年を振り返るとどうでしょう、よく失われた20年、失われた30年などと言われるように、この間の日本経済は低迷を続けています。

25年もやって効果がないところを見ると、このゼロ金利という政策は根本的に間違っていたと考えるのが素直な解釈ではないでしょうか。

にもかかわらず冒頭の候補者は、ゼロ金利政策(注)を維持しろといっているのです。

注)3月と7月の利上げによって、現在の政策金利は0.25%まで上がっていますが、依然、金利の水準は極めて低く、利上げをおこなわなければ「ゼロ金利的水準」を維持することになります。

なぜゼロ金利は失敗したのか

ここでいま、私たちは以下の2点について総括しておくべきだと思います。そしてその総括を出発点にして、今後の金融政策を進めるべきではないでしょうか。それを怠り「こんな時期に利上げをするのはアホやと思う」などとピント外れの発言をしていては、次の25年も地盤沈下は続くでしょう。

(いま総括しておくべき重要な2点)

  1. 過去25年にわたるゼロ金利政策は効果がなく、この間、世界における日本の経済的地位は低下し続けた
  2. 上記1の事実を踏まえたうえ、なぜゼロ金利政策は失敗したのか整理しておく必要がある

1に関してはここで改めてお話しする必要はないでしょう、この間の政策金利の推移(上のグラフ)と、一人当たりGDPの順位グラフ(下のグラフ、1990年から2021年まで)を見れば明らかだと思います。ご参考までに直近(2023年末時点)で、一人当たりGDPは主要国のなかで21位ですから、日本はすでに豊かな国ですら、なくなりつつあるといえるでしょう。

(日本の政策金利1975年以降の推移・TRADING ECONOMICSサイトより転載)

(主要国、一人当たりGDPランキング推移1990年以降・東洋経済オンラインより転載)

この25年間に及ぶ長期停滞の原因が、すべてゼロ金利政策の失敗にあるとは言いませんが、すくなくとも以下のような総括は否定できないと思います。

(総括)
・経済に対し、金融政策からできる最大限のサポートはゼロ金利政策と流動性供給だが、その両方を極限まで実施し続けても、経済を持ち上げるには至らなかった

では次に2について考えてみましょう、本コラムの主題である「なぜゼロ金利政策は失敗したのか」です。

以前もメルマガやこのレポートでお話ししたかもしれませんが、この点に関して僕は以下2点を挙げたいと思います。

一つ目は、金融政策だけでできることには限界があるという点です。そういえば安倍元首相が就任時に三本の矢という考えを提示しました、日本経済を浮揚させるため「金融政策」「財政政策」「成長戦略」の3つの政策を同時に進めるという基本政策です。そのうちの一つ「金融政策」がまさに「ゼロ金利政策+流動性供給(QE)」でしたが、安倍さんはその時点ですでに知っていたのでしょう。金融政策だけで経済を持ち上げることはできないと。

結果として安倍さんの三本の矢は機能しませんでしたが、それは三本の矢のうち「成長戦略」が実行できなかったからだと思います、ほかの二本の矢、すなわち「ゼロ金利政策」と「財政出動」によって時間を稼いでいる間に、本丸である三本目の矢、すなわち「企業の成長性を高める政策」を実行するというのが、きっと安倍さんの目論見だったのでしょう。

でも僕は思います、そもそも成長戦略とゼロ金利政策は相いれないのではないでしょうか。言い換えれば三本の矢は、そのスタート時点から矛盾を抱えていたのだと思います。

国の経済成長を高めるためには、一つ一つの会社が国際競争力を高めるしかありません。

でも今の日本をみるとどうでしょう、下のグラフは主要国の労働生産性の推移(1996年時点を100として指数化)ですが、ご覧のように、日本の労働生産性(注)は1996年から2021年まで横ばいです。

(主要国の労働生産性推移、日本経済新聞2023.9.29記事より転載)

注)労働生産性はGDPを就業者数で割った値です。

ついでに見ていただきたいのは下のグラフです、このグラフは1991年以降のG7の名目賃金の推移で、いずれも1991年に点を100として指数化したものです。

(G7の名目賃金推移、厚生労働省サイトより転載)

この2つのグラフを比べるとよくわかりますが、概ね会社が支払う賃金は、その国の労働生産性にそって動きます。つまり効率よく社員が働けば、自然と生産性は上がりお給料も上がるということです。

ここ数年、日本人が受け取るお給料はG7から取り残されていますが、上の2つグラフは、その理由が労働生産性の低さにあることを示唆していると思います。

つまりゼロ金利の25年間、企業の生産性は上がらず、そのことが賃金の低迷につながったということです。生産性が上がらない⇒賃金が伸びない⇒消費が増えない⇒会社は値下げしてモノやサービスを売ろうとする⇒デフレの継続⇒経済の収縮⇒賃金が伸びない⇒消費が・・・・、この負の循環が25年デフレの正体で、その根本的な原因は生産性の低さです。

なぜ日本は生産性が低いのか

25年デフレの本質的な原因は、上記のような生産性の低迷にあると僕は思います、では一歩進めて、なぜ日本企業は生産性が低いのでしょうか。この理由をつき止めなければ次の25年も同じことが起きるはずです。

結論から申し上げますと、僕は生産性低迷のその最大の原因は、1999年以降続くゼロ金利政策にあると思います。

本来なら生産性の低い会社は長続きできません、遅かれ早かれ、いずれは市場から退出を迫られるでしょう。でもこれは自然な現象で、いいかえれば自然淘汰です。倒産した会社で働く人たちは、一時的に耐えがたい苦痛を味わうかもしれません。でも長い目で見ればどうでしょう、自ら新しい資格や能力の習得に努め、いずれもっと生産性の高い会社、より高いお給料の会社に入社することも可能です。このようにして生産性の低い会社から人材が流出し、その人たちをより生産性の高い会社が吸収することにより、社会全体の生産性が高まり、そのことが日本経済全体の競争力につながるはずです。

ゼロ金利政策は、本来なら退出すべき生産性の低い会社=いわゆる「ゾンビ企業」を残してしまったのではないかと思います、いわば自然淘汰の阻害です。そしてただでさえ減少しつつある貴重な労働力を、生産性の低い会社に縛り付け、無駄に使ってきたのではないでしょうか。

これが僕が考える、二つ目のゼロ金利政策失敗の原因です。

たしかにゼロ金利は票になるでしょう、なぜなら金利の低下は大半の会社にとって「優しい政策」だからです、「利上げ反対」と口当たりの良い言葉を発することにより、あたかも自分を社会の見方のように演出することもできます。きっと冒頭の候補者にも、そんな損得勘定があるのでしょう。でもいま政治家が決めなければならないのはゼロ金利への回帰ではなく、ゼロ金利からの脱出ではないでしょうか。同時に退出した会社で働く従業員を、いかにスムーズに生産性の高い企業へ移動できる環境を作るかも、政府がやるべき政策だと思います。

政治家は口当たりに悪い政策であっても、国のために決めなければならないことがあるはずです、近年政治家の質は低下してしまいましたが、それは日本の経済力低下と無縁ではありません。でも、その政治家を選ぶのは私たち一人ひとり・・・、いま問われているのは日本人の民度です。

 

(2024年9月30日)




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