ホーム > 金融商品ご紹介 > 外貨建て個人年金保険 VS 外貨建て債券(ゼロクーポン債)
外貨建て個人年金保険 VS 外貨建て債券(ゼロクーポン債)
国内の低金利が続く中、最近注目を集めているのが外貨建て(主に米国ドル、ユーロ建て)の個人年金保険です。
この商品は“保険"という名前は付いていますが、極めて「外貨建て債券」に似た性格を持っています。そこで今回は「外貨建て債券」の中から「ゼロクーポン債」を例にとり、どちらが私たち消費者にとって有利な商品なのか、見てゆきたいと思います。

その前に、「外貨建て個人年金保険」にしても外貨建て「ゼロクーポン債」にしても、文字通り外貨での運用となるわけですが、そもそも外貨でお金を運用するメリットとは何なのでしょうか?

一般的には

1)通貨を一種類に限定することによるリスクを分散できること。
2)日本の円(今の円の金利は人類史上、最低といわれています)に比べ、ドル・ユーロなど相対的に高金利の通貨を持つことにより利子収入が得られる。

というように言われています。

最近の日経の連載「総合国力と日本」を見ると、日本の総合国力は世界で4位だそうですが、これから人口が減少するに従い総合国力も落ちてゆくことでしょう。(移民を受け入れるというなら別でしょうが)
為替の動きは短期的に予想するのは難しいですが、10年15年という長いスパンを見ると、自ずと国力を反映してゆくものです。このまま今の為替レートを維持できる、と思うほうが無理があるのではないでしょうか。

時々「私は一生海外に出ないので、外貨に分散する必要はない」とおっしゃる人がいますが、そういう人は日本の国力の低下とともに御自分の生活水準も下がる、ということを認識しておくべきでしょう(もっとも日本の将来に明るい見通しを持っておられるなら別ですが)。かつて世界一の経済大国だったイギリスが今でも豊かなのは海外の資産を豊富に持っていたからだとよく言われます。我々も見習う必要があると思うのですが、皆様はいかがでしょうか?

さて、上記のように保険で持つにしろ、債権で持つにしろ、外貨への分散投資は有効な手段だと思うのですが、この場合私たちはどちらを選べば良いのでしょうか。まず、それぞれの商品の特徴を見てゆきたいと思います。


●外貨建て個人年金保険
現在の商品としては

■えんドル君(AIGエジソン生命)
■レグルスまたはシリウス(販売形態によって名称を変えていますが同じ商品、アリコ)
■あんしんドル年金(東京海上日動あんしん生命)

などがあります。

細かい点を挙げればきりが無いのですが、大雑把に申し上げて

●険料は一時払いで最低でおよそ50万円くらいからです。
●概ね6年から10年の据え置き期間が設けられており、その期間が経過した後は、年金、一時金などで受け取ることができます。
●保険料の支払い、年金(あるいは一時金)の受け取りは円でも外貨でもOKですが、えんドル君以外は片道60銭~70銭の手数料が発生します。
●予定利率(2004年10月13日現在)は下記のようになっています。(いずれも複利ベース)
・えんドル君 2.38%
・レグルス 3.08%
・あんしんドルねんきん 3.57%(注1)

注1) あんしんドル年金は他の2商品とは違い、円ベースでの元本確保を行っています。
同商品の予定利率は3.57%と高めに設定されていますが、実際は上記のように保険商品として支出される経費部分があります。その部分を含めて3.57%という意味です。私の計算によると純粋に運用される部分の利回りは1.99%となります。(保険会社のパンフレットはよく読んでくださいね。うっかり年金額が3.57%の複利で受け取れると思うと大間違い!)
注2)いずれの商品の利回りも複利で表示されています。例えばレグルスを例にとると、複利で3.08%ですが、これを単利に換えて置きなおすと3.6%程度になります。
注3)いずれの商品も据え置き期間10年の場合です。

リスクとしては
●為替の影響を受けます。例えば1ドル=110円の時に100万円分購入したとすると、9,091ドルになりますよね。10年間、年利3%で運用されたとして12,218ドルになります。この時も1ドル=110円の円だったら約134万円(税引き前)を受け取れますが、仮に1ドル=80円の円高になっていれば約98万円と円ベースで元本を割ってしまいます。逆に言うと1ドル=82円の超円高にならない限り円ベースで元本を割ることはありません。
●あらかじめ決められた据え置き期間より前に解約する場合、年数に応じ最大で10.5%の解約控除(一種のペナルティ)が解約返戻金から控除されます。
●保険会社の信用リスクがあります。

長所としては
●外貨への分散投資ができます。
●日本円に比べ比較的高い運用利回りを得られます(複利で最高3.08%)。
●据え置き期間中は運用益に対し課税されないので、運用効率が高まります(課税繰り延べ効果)。
といったところでしょうか。

また、実際に私が保険会社に対し投資運用対象は何で行っているのか?という質問をしたところ、米国通貨建て債券を中心に運用しているということ以上の回答をもらえませんでした。おそらく米国国債(ゼロクーポン債か)でしょう。(もし、そうだとすれば保険会社はリスクゼロで“鞘抜き"に徹しているということになります)

さて、今まで見てきたように「外貨建て個人年金保険」は通貨分散と利回り向上という意味で有効な商品だと思いますが、「それでは直接米国の国債を買ったほうが手数料が少なくて済むんじゃない?」という声が聞こえてきそうですね。

そこで冒頭申し上げたように「ゼロクーポン債」との比較をしてみましょう。なぜゼロクーポンかといいますと、それは税金と関係があります。
ゼロクーポン債というのは日本でいうところの割引債と同じく、クーポン(利札、例えば日本の個人向け国債の場合半年に一度決められた利息を受け取る ことができます。これをクーポン、利札と呼びます)がありません。その代わりに割引発行(額面より低い価格で発行されます。例えば額面100ドルの債券が60ドルで発行されるなど)されます。額面と発行価額(既発債の場合は購入価格)の差が投資家の利益になります(そのかわりクーポンはもらえません)。

なぜゼロクーポン債が比較対象になるかといいますと、保険商品と同じく課税の繰り延べ効果があるからです。
では、ゼロクーポン債について見てゆきましょう。


●ゼロクーポン債
上記のように、文字通り“クーポン"(利札)がなく定期的に利息は受け取れないですが、額面より割り引いて発行されています。日本では個人が購入できる割引債は満期が1年の商品しかないですが、欧米では商品ラインアップも多く容易に購入できます。また、これらのゼロクーポン債は日本では大手の証券会社の店頭で購入することが出来ます(あまり積極的に営業はしていませんが…)。

長所
●高い利回りが期待できます。例えば2004年10月現在、残存期間およそ10年の債券の利回りはおよそ4%(証券会社によって多少違いますが)前後です。
例えば2014年8月15日に償還される(残存期間10年9ヶ月)米国のゼロクーポン債は10月19日現在の利回りは4.26%で単価が63.37ドルです。これを単利に直すと5.45%となります。日本では多くの金融商品は“単利"で表示されますが米国のゼロクーポン債は“複利"で表示されます。比較の際は注意が必要です。
●額面100ドルを利回りで割り引いた価格で取引されます。例えば額面100ドルの残存期間10年の債券は60ドルといった価格で売買されています。従って利付き債に比べ同じお金で多くの単位の債券を購入できます。
●課税の繰り延べ効果があります。保有中は利息を受け取ることが出来ませんので保有中に課税されることはありません。言い換えれば償還時(売価時)まで課税されることはありません。

リスク
●為替相場の影響を受ける。
●償還は額面でされるが、保有中は価格変動がある(金利が上がると価格は下がり、金利が上がると価格は下がります)。
●円で受け取る際に1ドルあたり50銭の手数料が発生します。

課税関係
●途中で売却する場合は、譲渡所得扱いとなります。5年を超えて保有した場合「長期譲渡所得」となり、譲渡益から50万円を差し引いた金額に1/2を掛けた金額が他の所得と合算され総合課税されます。逆に言うと売却益が50万円以下の場合は課税されません。
●償還時まで保有した場合、雑所得扱いとなります。雑所得等の所得の合計が20万円を超える場合は確定申告が必要です。
売却益が50万円以下の場合課税されない長期譲渡所得に比べ、不利といえます。


●外貨建て個人年金保険 VS ゼロクーポン債 どちらを選ぶか?

比較表

  外貨建て個人年金保険 ゼロクーポン債
利回り 1.99%〜3.08%(複利)/10年据え置き型 およそ4.0%(複利)残存期間10年
課税関係. 年金を一括で受け取った場合は一時所得年金で受け取った場合は「受け取り年金額」から「必要経費」(注2)を引いた金額が雑所得として課税対象になります。 途中で売却した場合は譲渡所得(保有期間5年以下の場合は「短期譲渡所得」5年超の場合は「長期譲渡所得」(注1)、満期まで保有した場合は償還時に雑所得として課税対象になります。
安全性 保険会社の倒産リスクがあります。 アメリカがデフォルト(債務不履行)をおこさない限り安全です。

注1) 長期譲渡所得に該当した場合は、売買益から50万円の特別控除を差し引き、その金額をさらに1/2にした金額が他の所得と合算され、総合課税されます。
注2) 必要経費とは簡単に言うと受け取る年金額に対応した支払い保険料のことです。

●利回りで見ると、圧倒的にゼロクーポン債が有利といえます。例えば外貨建て個人年金保険の利回りを年率2.5%、ゼロクーポン債の利回りを年率4.0%とした場合。300万円の元金が10年後に外貨建て個人年金保険の場合384万円、ゼロクーポン債の場合は444万円(いずれも税金、為替の影響は考慮せず)となり60万円の差が出てきます。
●税金を考慮した場合、ゼロクーポン債は満期直前に売却することにより売却益が50万円以下であれば非課税にすることが出来ます。また、50万円を越える部分についても50%しか課税対象になりません(50%部分が年度の所得に合算され、総合課税されます)。これは、かなり有利ですね。ただ、金融商品に対する課税は頻繁に変更されるので(特に長期投資する場合は)あまり“課税の歪み"を を利用した資産運用は考えないでください。(現に今も金融商品に対する一元的課税に関する検討が行われています。)
外貨建て個人年金保険の年金原資(要するに貯まったお金)を一時金で受け取る場合は一時所得扱いになります。一時所得は「受け取り額」から「必要経費(注2)」を差し引き、さらに50万円の特別控除を差し引いて計算されます。その一時所得の金額の1/2が他の所得と合算され、総合課税されます。

また、年金形式で受け取った場合は雑所得扱いです。ただ、上記のように全額が雑所得になるわけではなく、要は“運用で儲かった分"だけが雑所得になります。雑所得は一時所得や長期の譲渡所得と違って50万円の特別控除や半額課税という“お助け"が無い分、たいへん不利な扱いとなります。選択する場合は注意が必要です。

●結論を申し上げますと、両方とも非常に似通った商品(と言うか、外貨建て個人年金保険はゼロクーポン債で運用されていると推測できます)ですが、税制面、利回り、安全性の点でゼロクーポン債が圧倒的に有利と言わざるをえません。ただ、保険がいわば“おまかせパッケージ的"に保険会社から出来合い商品として購入できますが、ゼロクーポン債の場合は残存期間の異なったさまざまな商品から自分で選択し、注文を出さなくてはなりません(逆にいうと選択肢が多くてよいのですが)。また、株の売買と同じでゼロクーポン債はその時点の価格で機動的に売買が出来ますが、逆に言うと自分自身でタイミングを計らなければなりません。

要するに、ゼロクーポン債はある程度の金融に関する知識がある人にとっては、お勧め商品といえるでしょう。

例えば満期の年度が異なる複数のゼロクーポン債を購入することにより、(それらを償還直前に売却すれば)実質非課税で運用することが可能な場合もあり、ライフプランに合わせた複雑な売買が可能になってきます。一方、外貨建て個人年金保険には死亡給付金のみ円建てで一時払い保険料が保証されるなど(東京海上日動あんしん生命の「あんしんドル年金」のみ)の安心が付いている部分もあり、どちらかというと素人向けの“おまかせパッケージ的"な商品と言えるでしょう。

最後に一言、外貨建て年金保険はもともとゼロクーポン債で運用されており(筆者推測ですが)、保険会社の経費、利益がその上に乗っかっているわけです。もともとの商品より魅力的な商品にするには相当の努力が必要な道理ですよね。

totop