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■ポートフォリオ作成の手順について(その4)

同じことは例えば金(Gold)についてもいえます。例えばここ10年の金価格の推移をみてみますと、2005年あたりを境にチャートの形状が一変していることがわかります。

10年の金価格の推移

2005年以前は比較的おとなしい価格変動に終始していましたが、それ以降に急激に大きな価格変動をみることができます。もちろん過去にさかのぼれば1980年に金は急騰し、2005年以降と同様に大きな変動を示す時期があったのですが、少なくともこの10年をみる限り、はじめの3年とそれ以降で、その性格が大きく異なるのは事実です。このような場合私たちは一体どの区間を信頼出来るに足る期間として捉えればいいのでしょうか・・・

さらに申し上げますと、やや専門的なお話しになりますが、ポートフォリオのリスク/リターンの算出については、全ての組み入れ対象商品の運用期間をそろえておく必要があります。どういうことかと申しますと、例えばAというファンド(運用期間2005年6月~)とBというファンド(運用期間2003年1月~)という2商品を組み合わせたポートフォリオのリスク/リターンを算出する場合、データが共通する期間(2005年6月~)のみがサンプルとして使用できることなるわけです。2商品によるポートフォリオの場合は、それほど大きな問題にはなりませんが、銘柄数が増えれば増えるほどこれは深刻な問題となります。果たしてこのように数少ないサンプルを使用したリスク/リターンが統計学上意味があるのでしょうか。

もう一つの問題は投資対象の質的な変容です。これはさきほどASEAN株の例でお話ししましたことと関係ありますが、金融商品といいますのは時間とともに大きく質的な変化をみせる場合があります。株一つを取ってみても、例えば新興国株の位置づけはここ数年で大きく変化し、流入するマネーの質量ともに大幅な変容を遂げています。あるいはコモディティ市場をみても同様で、ここ数年はコモディティの金融用品化が急速に進み、株式との相関性も大きな変化をみせ始めています。

このように各々の金融商品の性格そのものが大きく変化するなかで、過去の運用成績にとらわれ過ぎるのはむしろ危険というものではないでしょうか。それよりむしろ私たちに要求されるのは、いわゆるフォワード・ルッキングな(先見性をもった)銘柄選択ではないでしょうか、もちろん過去の運用成績に基づいたリスク/リターンも参考値として使用するぶんには意味はあるでしょうが・・・

ではフォワード・ルッキングとはどういう意味でしょうか。

まずは世界経済の中心が、従来の日米欧を中心とした先進国からアジアや南米などの新興国に移ってゆくであろうという点で、この見方に異論を唱える人はまずいないでしょう。かつての新興国であった米国、ドイツ、日本などの経済発展の歴史を振り返ってみますと、現在の新興国が中途半端にその成長を止めるとは考えにくく、かなりの確率で彼らは先進国並みの経済規模に達するはずです。その結果アジアや南米では中間所得層が拡大し、巨大な消費市場が生まれることでしょう。

彼らの消費意欲を満たすため、工業製品や農産物は増産が求められるでしょう。が一方で、それらを生産するための資源の供給を急に増やすことはできません。需要と供給がマッチするまで、しばらくは天然資源の価格が上昇する形で資源不足は調整されるはずです。その結果銀やプラチナなど産業用貴金属、銅・アルミ・亜鉛などの非鉄金属、大豆・小麦・トウモロコシなどの農産物、このような商品の価格は徐々に(あるいは急速に)上昇して 行くことでしょう。また先進国通貨の相対価値が下がる過程で、金(Gold)は絶対通貨として価値を高めることになるでしょう。金には先進国通貨の為替ヘッジ効果があるとも言えるわけです。

これら資産は一定額資産ポートフォリオに組み込んでおくべきでしょう。あるいは新興国経済拡大に伴って、彼らの内需を取り込む形で先進国側の輸出産業は成長するはずです。もちろん地理的あるいは人的な結びつきの強さから、新興国株そのものの上昇率はさらに高いものになるに違いありません。先進国株を買うなら資源関連株、とくに鉱山株がよいでしょう。豪州や米国上場の鉱山株の個別銘柄もいいですし、鉱山株ファンドもいいと思います。新興国株を組み入れるならアクティブ型ファンドでもいいですが、流動性、コスト、透明性などの点でETFがよいでしょう。新興国株ETFも国内で買える銘柄が随分増えてきましたが、それでも選択肢の点で不満をお持ちでしたら、海外の証券会社やラップアカウント、プライベートバンク経由で購入する方法もあります。また新興国の債券や通貨も有望でしょう。新興国の信用リスク低下にともなって新興国の国債価格は上昇するでしょうし、為替も強くなって行くはずです。

これがフォワード・ルッキングな銘柄選択で、私は銘柄選びにはこのように一歩先を見越した考え方が不可欠だと思いますし、さらにそれらを補完する位置付けの資産として、景気変動の影響を受けないマネージド・フューチャーズや裁定取引型のヘッジファンドなども一定額組み入れておくべきではないでしょうか。あるいはリーマン・ショック以降ますます不安定さを増す世界経済の動向に備え、一定額を現物不動産や現物の貴金属などに移しておくという質的な分散も有効でしょうし、お好きな方にとってはASEANの近代コインもよいと思います。また世界各地で突発的に発生する金融不安に備え、地理的な資産分散の検討も必要ではないかと思います。いすれにしてもこのようなフォワード・ルッキングな銘柄選択においては、自ずと皆さんお一人お一人のストーリーの組み立てが要求されることになるでしょう。

以上私が実務において留意しているいくつかのポイントや、具体的なポートフォリオの構築法についてお話しして参りました。個人の方で全く同じような進め方はなかなか難しい部分もあると思いますが、一つのヒントとしてご活用いただければと思います。

重要なのは、ただやみくもにリターンを追求することではなく、ご自分のライフプランや考え方にあった目標リターンをまず計算し、そこからポートフォリオ→銘柄選択へと進むべきだと私は考えています。

残念ながら我が国は既に経済的な成熟期に入っており、私たち一人一人の収入は、もうかつてのように急速に増えることはないでしょう。それでも1500兆円といわれる家計の金融資産を、一人一人の目標や考え方にあった方法で戦略性をもって増やしてゆくことにより、これからも十分に豊かさを享受し続けることはできるのではないでしょうか。私たちは資産運用という点でも、もっと成長してゆくべきなのかもしれません。


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