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■マネージド・フューチャーズの使い方(その2)

一方で上記のような過度なレバレッジへの依存や、実態のない虚構的金融商品の開発が次々に行われ、
ヘッジファンドは急速に巨大化してゆきました、
1998年にはニューヨークに拠点をおく大手ヘッジファンドLTCMが突如(実質)破綻しますが、
これは人間が持つ際限のない欲望に対する一つの警告だったのかもしれません。
同社はノーベル経済学賞受賞者を二人も抱える卓越したヘッジファンドだと当時みられていましたが、
市場はときに人間が予期できない方向にむかって暴力的に動くもの、
ノーベル経済学賞の頭脳をもってしても市場の暴走を予想することはできませんでした、
いやむしろこの破綻は、彼ら自身の金融工学への過信が招いた当然の結末だったのかもしれません。

にもかかわらず、LTCM破綻が発した警告を無視し、その後も我々は金融バブルへの道をひたすら走り続けることになります、
もちろんヘッジファンドだけにその罪をかぶせてしまうことはできません、
M&A、不動産、コモディティ、ローン証券化商品、新興国株、CDS・・・ありとあらゆる金融商品に大量のマネーが流れ込み、
同時多発的に世界で金融バブルが膨張してゆくことになります、今から考えるとまさに破滅への道を一直線に走り続けたわけですが、その原動力もまたマネーでした。
人よりも1ドルでも多く稼ぎたいという欲望、上限のない報酬で人間をつりあげ暴走のスピードを速める組織、
そもそも組織は人間が作るものではありますが、一方でできあがってしまった組織を人間が
コントロールするのは至難の業のようです。
組織はあたかも一個の意志をもった生き物のように暴走を続け、そして最後に金銭的なショートとともに突然破綻する。
証券会社という組織、銀行という組織、保険会社という組織、不動産会社という組織、
そしてヘッジファンドという組織・・・モラルと規律で縛られない全ての組織は自己増殖しながら暴走し、
そしてついには破綻する運命にあるのかもしれません。

このような観点で金融商品の歴史を振り返ってみますと、17世紀のチューリップバブル、
南海泡沫事件にはじまりLTCM破綻、 日本のバブル崩壊、そして今回のサブプライム・ショックに至るまで、
世界の金融史は組織の暴走と破綻の歴史だったといえるかもしれません。
そして常に組織を暴走させるのは、規律とモラルを欠いた人間が持つ欲望の集合体です、
人間がこの欲望を制御する能力を自ら獲得しないかぎり、何らかの外的な規律でその欲望を矯正するしかないのでしょう。
現在世界の金融当局はあらためて金融業に関する規制を検討していますが、仮に眼の前にある危機に対応でしたとしても、
人間はいずれ100年に一度といわれる危機を、今後も繰り返してゆくにちがいありません、
その意味でこれからも欲望と規制のはざまで世界の金融史は綴られてゆくことでしょう・・・

一方で人間の欲望は悪いことばかりではありません、
そもそも欲望こそが人類をここまで進化させてきたともいえるわけで、もし仮に人間に欲望がなければ、
我々はこれほどまでに精緻で効率の高い社会システムを築くことはできなかったでしょうし、
これほどの豊かさを手に入れることもできなかったでしょう。実体経済と金融システムは車の両輪です、
人間はモノを作り、それを消費することでしか生きてゆけませんが、いくら大量のモノを生産できたとしても、
それを世界中に効率よく分配するシステムがなければ、世界の幸福の総量は増えたとはいえません。
そういう意味でモノを効率よく作る行為と同じくらい、金融システムは重要な役割を担っているといえるのではないでしょうか。

ただ残念ながら人間には欲望という厄介なものがあります、欲望はものづくりを環境破壊の道具に変える一方で、
金融システムを危険な賭博場に変えてしまうことがあります、人間が自らの意志で欲望を制御できるようになるまで、
何世代にもわたる進歩や進化が必要でしょう、いやあるいはそれすら幻想にすぎず、
我々は永遠に欲望を制御できない存在なのかもしれません、 であれば我々は自らの欲望にタガをはめるため、
自らが作る規制によって欲望を制御してゆくしかないのではないでしょうか。

さきほど述べたように、ヘッジファンドは元来相場の下落をヘッジするために考案された運用手法です、
それそのものは決して度を過ぎた儲けを狙うために作られた手法ではありません、
いやむしろ相場のサイクルに合わせて自らの資産が大きく減ったり増えたりすること、
そのような現象による精神的苦痛から逃れたいという人間の切なる願いから生まれたものです。
もし現在に生きる我々が60年前のアルフレッド・ジョーンズと同様に、このような切実な目的からヘッジファンドを利用するなら、
そのことは決してLTCMが発した警告を無視したことにはならないのではないでしょうか。


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